5年で1億円の利益、しかし競争は熾烈 アービトラージ botter QASH氏 1/4

2021年からbotを使って暗号資産のアービトラージ取引を始め、約5年で1億円の利益を上げた兼業botterのQASH氏。損をするのが嫌いで、絶対に勝てる取引しかせず、取引の時以外は円かドルの法定通貨やステーブルコインしか持たない。価格変動の激しい暗号資産は「1秒以上持ちたくない」という徹底ぶりだ。そんなQASH氏にアービトラージ取引の手法や取引についての考え方などについて聞いた。

インタビュー・編集:内田 誠也
執筆:山本 裕司

QASH氏 プロフィール

2017年よりアービトラージを主体とした取引を行うBotter。大学院在学時に後輩からビットコインの存在を教えてもらい、QuoinexでビットコインではなくQASHという仮想通貨を購入、2ヶ月で原資5000円を1000万円以上にする。2021年ごろからbotを用いたアービトラージを主体として取引を初め、2022年に累計利益1億円達成。メジャーなチェーンからマイナーなチェーンまで至る所でBOTを動かし、利益を追い求めている。
Twitter:https://twitter.com/qash_NFT
ブログ:https://qash-tit.hatenablog.com
Note:https://note.com/qash

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リスクを取らずに取引所間の乖離を狙うアービトラージ

――botを使ってどのようなトレードをしているのですか。

アービトラージという取引を行っています。

わかりやすくいうと、同じトークンでも、取引所によって取引されている価格が異なります。それで安く取引されているトークンを買って高く取引されている取引所に送金して売る、その差分で利益を出す、ということをやっています。

一回の取り引きでの利益は0.1~2%程度で、それを何度も繰り返して利益を積み上げていきます。

取引所やブロックチェーンにお金を預ける以外に大きなリスクはなく、取引が成立すれば必ず勝てます。

ただし、人がパソコンの前でキーボードを叩いているようでは間に合わず、botを使って0.1ミリ秒単位で競うこともあります

――アービトラージ以外のbotでの取引はされていないのですか

下がったら買って上がったら売るといった取引を繰り返すbotterもいますが、私はやっていません。私は基本的に損をするのが嫌いで、トレードも苦手なんです。

MM(マーケットメイク)botという特殊なトレードをやってみたこともあるのですが、全く勝てませんでした。基本的に同じbotを使った取引でもトレードとアービトラージはまったく別ものですね。

――すると、相場のボラティリティが高まったときほど価格差は生じやすくなるのでしょうか。

その通りです。バブルになれば、乗り遅れてはならないという人が多く参加してくるので、取引量も増えて取引所間の価格の乖離も生じやすくなる。

そこをbotでいち早く察知して、利ザヤを取る。自分のようなbotterが世界中に存在するわけですから価格の乖離が生じるのはわずかな時間で、早い者勝ちです。

あと暴落時にも乖離は生じやすくなります。22年5月にLunaが壊滅的な暴落をしましたが、あの時も一目散に売り逃げようという人達が殺到して雑な取引になっていたので、乖離が生じました。

こちらはLunaではなく、USDCなどで取り引きしているので、暴落しようが関係ないです。

――取引が成立すると価格差が埋まるので、出遅れると取引できないということですか。

そうです。アービトラージはbotterが利ザヤを稼ぐための取り引き手法ではあるのですが、暗号資産市場全体でいうと、各トークン価格が限りなく一物一価が保たれるよう是正しているという価格調整の役割もあるんです。

例えばBNBとUSDTのペア、BNBとBUSDのペアの価格は理論上、同じになるはずですが、一瞬だけ乖離することがあるんです。

仮に1BNBの価格が300USDTと299BUSDであり、1USDT=1BUSDの場合、アービトラージをする人は、299BUSDを用いて1BNBを買い、得られた1BNBを売って300USDTとし、300USDTを300BUSDと交換する。

そうすると、1BUSD分の利益がでます。

このようなメカニズムで、取引所間の価格差が是正され、どの取引所でもある程度同価格で仮想通貨を購入できる。

ですから、私たちは市場の調整役として社会的貢献をしている。その報酬として利ザヤを頂いているというわけですね。

もちろん、簡単に利ザヤを得られるわけではなく、そこには熾烈な争いがあるわけなんですが。

クラウド通信費だけで数百万円にも

――具体的にどのように運用するのですか。

取引所にbotをつなぎっぱなしにして、取引の機会を待つというのが基本です。

botとの接続ポイントであるノードの数を、1台2台と数えますが、利益を出せそうなチェーンをピックアップして、botをつなぎます。

現在は5チェーン程度に資産を入れ、ノードを10台程度運用しています。

後はbotがプログラム通りに乖離を検知して、取引が成立するのを待つという感じです。

ただ、放っておけば勝手に儲かるというわけではなく、他のbotより早く乖離を検知し、取引しなければならない。そのためのプログラムの改良は欠かせませんし、とてつもなく強いbotがあって、勝ち目がないようなら撤退する必要もあります。

――ノードの台数が多ければ多いほど勝ちやすくなるということですね。

もちろん台数が多ければ勝ちやすいですが、それと同程度に大事なのがノード自体の改造です。ただし、改造をすると通信費用が洒落にならないレベルで増えます。

クラウドにつなぎっ放しなので、取引所によりますが、通信費は1台で月10万円くらいかかります。

トップ層はノードを数百台運用しており、月当たり数千万円のクラウド代がかかっています。このクラスになると、チームで運用しているので、個人では全く太刀打ちできません。BSCで稼いでいるbotなどはそんなチームも存在します。

もともと、私は専門的にプログラミングを学んだわけではないので、情報系の大学を出たような人には技術力で敵わない。だから、情報収集とフットワークの軽さで勝負することを心がけ、いろいろなチェーンを渡り歩きながら、強い人がいないところを主戦場としています。

400のチェーンを調査し勝てそうな場所を探す

――botを運用するチェーンはどうやって決めるのですか

EVM(Ethereum Virtual Machine)を使ったチェーンだと400以上あるんですが、それらを1つ1つ調査します。調査の内容は主にほかのbotがどれくらい儲かっているかということです。

スワップの履歴はチェーンに記録されるので、そのアドレスがどのくらい儲かっているのかは、だいたいわかります。一つのチェーンに、10や20のbotがあるので、それを全部見て、どれぐらい勝てそうか判断しています。

400以上のチェーンを調べると、4カ月トランザクションがないものとかもあるんですよ。他にも1位のbotでも月に10円くらいしか儲かっていないとか。

そんなところでbotを運営しても仕方がないし、強いbotが集まっているところでは勝負にならない。そうやって、うまくいきそうなミドルクラスのチェーンをピックアップしていくと50くらいになる。それで、実際にお金を入れて運用してみるわけです。

週1ペースで新しいチェーンに入ることになり、なかなか大変な作業ですが、それでなければ利益を出せない。これは必要な努力と思っています。

――チェーンの規模も判断基準になるのですか。

参加者が多くてボリュームが大きいと、それだけ取引も大きくて、いろいろな取引が行われるので乖離が生じやすくなるんです。

例えばEthereumの取引量は1日1億ドル以上もありますから、中には相場を無視した取引をする人や誤発注する人も出てくる。

それだけにチャンスも増えるのですが、その代わり競争も激しい。普通のbotを漫然と運用しているだけでは絶対に勝てませんし、個人で太刀打ちできるレベルでもない。

しっかり戦略を考えて、勝つための運用をしないと、高いクラウド代を払ってお終いです。

0.1ミリ秒単位の熾烈な競争が繰り広げられる過酷な世界

――botのプログラミングの勉強や改良も欠かせないというわけですね。

私も最初はエクセルマクロしか使えなかったのですが、Pythonを覚えてからbotで利益を得る機会が増えました。

あとは、GoとかRustなども勉強をして取り入れました。やはり使える言語の数が増えると、アプローチできる数が明らかに違う。

現在はSolidityという言語を使用して作ったコントラクトを用いて、何パターンの取引にでも対応できます。

ただ、何でもかんでもスワップしてしまうと、送金手数料が高くついて元が取れなくなって、トータルで負けてしまうことがあるので、そこの兼ね合いもあります。

ただ、単純に取引パターンの数や幅だけを見れば、常に技術研鑽は欠かせない。

結局、速度を争っているので、トランザクションを送ったり検知したりするのにノードと高速通信できる言語を使う必要があります。さらに最近は公式のRPCでは遅すぎるので、自分でノードを立てて、さらに改造して、0.1ミリ秒単位で速さを競うといったことになっている。

――まさに熾烈な戦いですね。

そうやって、努力して少し強くなって、相手を追い越したと思ったら、相手もいつの間にか強くなって、また打ち負かされるという繰り返しです。

もう、アニメのドラゴンボールのバトルの世界です。ようやく強敵を倒したら、さらなる強敵が現れるような。いつかは私のような個人では到底勝てない時期が来るでしょうね。

いずれ、市販のグラフィックボードを使わず、マイニング専用機を使ってマイニングする人のようにbot専用の機械や、専用通信網を開発する人も現れるんじゃないですかね。スパコン並みの性能のマシンを使うとか。

実際はブロックチェーン上の取り引きなので、ネットワーク周りの技術が重要で、暗号化やエンコードの速度を最適化しても必ずしも勝てるわけではないのですがそのようなことも考える必要があるところで競っています。

――どれくらいの利益を上げられるものなのですか。

マーケットの状況によりますね。

私の場合、マーケットが低調でボラティリティも低下してくると、月200万円いけばいいくらいですね。特に22年6月にLunaが暴落して以降、暗号資産への参加者が減ってしまったような気がします。

怖くて手が出せないと思っている人が多いのでしょう。

正直なところ、ノードを立ててアービトラージをしている人の中で、私はレベルが低いほうなんです。

BSCやイーサリアムなどの大きなチェーンで、上位5番以内に入るような人だと日給200万の世界なんです。

Lunaの暴落のような混乱がおきると、1日に3億円くらい稼いでしまうという世界です。しかし、そんなに稼げる人はわずかで、ガス代やクラウドの通信料でマイナスになる人も多い。あまり人に勧められる取引ではありませんね。

中途半端に手を出すと、クラウドの通信費だけで資産を溶かして終わってしまいます。

ほんの一瞬の取り引きをめぐる熾烈な戦いだというアービトラージの世界で奮闘するQASH氏。次回は、どのようにしてアービトラージの世界に足を踏み入れるまでの経緯や取引に対する考え方などをお聞きします。

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