「税金の問題は後からリスクとなることが多い」暗号資産特化のホワイトテック会計事務所・菊地氏 2/2

暗号資産の税務申告に強いホワイトテック会計事務所代表の菊地貴加志氏。暗号資産の税務相談は市場の動向によって相談数が大きく増減するうえ、税務処理のルールも定まっていない部分があり、会計事務所としては決して楽な案件ではないという。

「暗号資産取引の申告で困っている人の力になりたい」と話す菊地代表に、所得申告でのポイントや節税目的で会社設立を検討する際の注意点などを聞いた。

ホワイトテック会計事務所代表・菊地 貴加志氏 プロフィール
税理士・公認会計士
大学卒業後、有限責任監査法人トーマツに入社。建設業・製造業・小売業を中心に上場企業の会計監査、上場支援業務、内部統制構築支援業務に従事。
その後、2018年に暗号資産税務に特化したホワイトテック会計事務所を開業。多くの暗号資産投資家、ブロックチェーン企業の会計税務支援を行っている。その他、暗号資産交換業者の監査に従事。JCTI仮想通貨税務研究会所属。自身も暗号資産の投資やマイニング、ステーキング、レンディングを活用している。
インタビュー・編集:内田 誠也
執筆:山本 裕司

インタビューの前編はこちら。

取引によっては所得の確定が困難なケースも

――暗号資産の税金に関しては、どのような相談が多いのですか。

暗号資産に対する課税を「怖い」と思っている人が多いという印象があります。

暗号資産への課税の負担が大きすぎて家計が破綻したとか、国税局の税務調査を受けたとか。そうした話を新聞などのニュースやSNSの書き込みなどで見て、相談に来る人が多いですね。

私たちの事務所ではスポット税務相談というサービスがあって、単発の相談を受け付けているのですが、そうした相談があります。

ホワイトテック会計事務所のスポット税務相談ページ:https://whitetec.jp/spot-tax-consultation/

依頼者の多くは「どうしたらいいのか分からない」という不安を抱えています。そのうえ、暗号資産の中には取引履歴が取得しにくいものがあるんですね。

例えば、今年流行したSTEPNなども取引履歴が取れないんですよ。

普通の取引所などなら、売買履歴などは簡単にダウンロードできると思いますが、STEPNはそれができない。だったら、どうやって計算すればいいのか、ということもよく相談されます。

あとはSTEPNであれば、歩けば暗号資産がもらえたり2足のスニーカーから新たなスニーカーを生み出したり、といったことができるのですが、こういったイベントでの報酬に対して、どのように課税されるのか、といったことを聞かれます。

STEPNのサービス画面 出典:https://apps.apple.com/jp/app/stepn/id1598112424

――履歴を取れない場合、実際にはどうするのでしょう。

運営側で、後日履歴を取れるようにするという話は聞いたことあるのですが、現状どうなっているのかはよく分からないですね。

でも、利益が出ているなら申告はしなければならないし、そのためには所得を計算しなければならないので、可能な限り正確に損益を算定できるように代替案を考えなければなりません。

年末には所得を確定しなければならないので、運営側になんとかしてもらいたいところですが、もし履歴が取れないようであれば、最初に暗号資産に投資した元本と、現在の暗号資産を全てを売却した分を差し引いて計算するくらいしかありません。

本来は、途中経過の取引についてもきちんと損益計算しなければならないのですが。ただ、代替案も年を越しての対応だとできなくなってしまうので、年内にどうするか決めておく必要があります。

――相談は、年末から年始にかけてが多いのですか。

いいえ、相談件数は年末年始という時節よりも、暗号資産の市場の賑わいに左右されるほうが大きいですね。

もちろん、時期での比較としては年末年始のほうが多いのですが、市場が盛り上がっているときほど、「税金はどうすればいいのか」という相談が一気に増えます。

STEPNも22年の3月、4月頃には相談がとても多かったのですが、暴落を受けて、一気に相談が減りました。

スポット相談は1カ月先くらいまで予約できるのですが、市場が悪化するとキャンセルになってしまうんですよ。利益自体が消失したから、もう税金を気にしなくていいじゃんみたいな感じでしょうか。

――暗号資産の税務というのは、難しいものなんですね。始めるときは、あまり気にしませんが。

損益を算定するのが非常に難しいんですよね。

数種類の暗号資産を国内取引所のみで取引している場合などはとても簡単です。ただ、実際の暗号資産投資家は海外取引所は当たり前ですし、最近はGameFiが流行っているので、とても計算が複雑になります。

業界団体も税制改正の要望書を提出したりしていますが、中々希望通りには進みません。安心して暗号資産の取引が行えるようになるためにも、税制は整備されていってほしいですね。

暗号資産は利益が確定するタイミングに注意

――個人でも課税をめぐるトラブルは多いのですか。

暗号資産をいろいろなコインに回転させてトレードする人などは注意が必要です。

例えばXRPで勝ち越している人が、XRPを海外の取引所でUSDTに交換して、また、頃合いを見てXRPに戻すというトレードを何度もしていたとしますよね。

このとき、暗号資産同士の売買でも損益が都度発生しているのですが、そこに気付いていないというか、勘違いしている人が多い。

税金の計算上は、違うコインに交換した時点で、利益が確定しているので、そこで課税されるんです。

ただ、コインを回転させているだけ、日本円に換金していないから大丈夫という考えでいると、申告漏れになってしまいます。

ほかには親族や友人に暗号資産を譲ったという場合も、勘違いが起きやすいです。たとえ、コイン1個あげたといっても、それは贈与になる。

コイン1個もらったといっても、実際に現金が動くわけではないので、ただのもののやり取りをしているような感覚になるかもしれませんが、暗号資産は時価で課税されるんです。

ですから、「1ビットコインあげただけ」と言っても、今の価格なら300万円前後のお金が動いたことになります。

だから、あげた側は300万円近い収入があったと考えなければならないし、もらった側は基礎控除額の110万円を超えてしまうので贈与税もかかります。

このようにお金の動きがないのに、贈与した側もされた側も税金がかかってしまいます。なので、親族や友人であっても、気軽に暗号資産のやり取りをするのは注意が必要です。

後は、暗号資産の運用を誰かに代行してもらっている場合も気を付けてほしいですね。

――代行してもらってもいけないんですか。

税法以外の法律に抵触する恐れはありますが、税法上はきちんと所得帰属者が申告をしていれば、問題はないです。

代理で取引したとしても、税法上の所得は実質的に所有している方に帰属することになりますから。

暗号資産取引の法人化には注意点も

――法人と個人では、相談が多いのはどちらですか。

個人が8割くらい、法人が2割くらいでしょうか。

個人の中には、節税のために法人化を考えているという人もいますが、最初から法人で相談に来るケースはあまり多くありません。

また法人の場合は業務を受けられないケースも多いんです。

――依頼を受けられないというのは、どのようなケースですか。

税理士に相談せずに適当に法人を作ってしまっているケースとかですかね。それで、説明のつかないことになっている

税務署に申告書の内容を否認されたときのリスクを理解したうえで、やっているのであれば、いいのですが、そのあたりのリスクも理解されていない人がいらっしゃって。

単に、会社を設立して個人に帰属する利益を法人に付け替えできると思っているんですね。

そういう場合は、お引き受けできないことがあります。私たちも依頼を受けている以上、顧客を守らなければならないですし、法令遵守も大事ですから。だから、これでは対応できないという場合はお断りせざるを得ません。

――具体的には、どういう間違いが多いんですか。

間違いというよりも、基本的なデータがきちんとそろっていないとか、法人と個人のアカウントがぐちゃぐちゃになっているということが多いですね。

個人と法人の資産を区別せずにDeFiなんかをやっていると、もう複雑すぎて、計算が追い付かないですし、予算も合わないんですよね。

――個人と法人はしっかり資金を分けないといけないということですよね。

ちゃんと合理的に説明がつける状態であれば大丈夫です。しっかりと法人を設立する前に税理士に相談してから、設立することをオススメします。

▼ホワイトテック会計事務所では法人設立に関わる相談も受け付けている

――暗号資産の取引について法人化を考える場合、注意すべき点はなんでしょう。

法人化したときに、税制上、何が一番変わるかというと、期末時価評価になるということです。期末になると、強制的に利益を確定させられるようなイメージです。

個人的には取得単価が極端に低くなるような取引がなければ、さほどデメリットはないと考えていますが、長期保有目的で含み益を実現させたくない人にはメリットはあまりない。

投資スタイルに合わせて考えることが必要です。

それに、個人の税金が高いって言っても、投資やトレードで4,000万円以上稼がないと、よく言われている最高税率55%にはならないんです。

また法人で稼いだお金はあくまで法人のもので個人に帰属させるためには結局、役員報酬として支給しなければなりません。

だから、必ずしも法人化が正しいというわけではない。

あとは暗号資産のみが事業目的だと、銀行の口座開設もうまくいかないことがあるので注意が必要です。

――暗号資産の納税などで悩んでいる人にアドバイスをお願いします。

暗号資産取引をするときに、税金の問題は後からリスクとなることが多くて、実際に税金が払えずに大きな借金を抱えたり、ずっと不安を抱えてしまう人もいます。

取引をして利益が出たら、そこには税金がかかるということを忘れずにいてほしいと思います。

また、SNSなどネット上では、税理士ではない人が情報発信したりアドバイスしたりしていますが、間違っている内容も多いので必ず専門家に相談してください。

ホワイトテック会計事務所様はBurry Market Researchの税務顧問も担当いただいております。ご興味のある方はぜひお問合せください。

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