金融史においてビットコインやDeFiはどこが画期的だったのか? 1/2

前提

この記事は、ビットコイナー反省会の動画を書き起こし・要約した記事です。掲載はビットコイナー反省会様に許可をいただいております。書き起こしについて快くご許可をいただきました運営様にこの場を借りて改めてお礼申し上げます。

ビットコイナー反省会とは

ビットコインを中心に、仮想通貨、ブロックチェーン関係の専門的なトピックを黎明期から多分日本では最も深く議論しているチャンネルです。 日本国内の黎明期からビットコイン、ブロックチェーン業界の豪華ゲストを呼びつつ、楽しく、真面目に話しています。

ホスト

Koji Higashi。ビットコインのポテンシャルに魅了され、2014年からフルタイムで関連事業に取り組む。日本のビットコイン業界の草分け的存在の一人。ビットコイン、ブロックチェーン業界においてプロダクトマネジャー、コンテンツクリエイター、マーケターなど多角的に活動しており、国内外で認知されている。Twitterアカウント: https://twitter.com/Coin_and_Peace

参照動画

出演者プロフィール

東京大学総合文化研究科 特任教授
内田 善彦
1994年日本銀行入行。金融研究所、金融機構局等を経て、現職。この間、2005~07年に大阪大学大学院経済学研究科・助教授、2014年~2017年に金融庁監督局・監督企画官として勤務。金融機関のリスク管理・経営管理に関して様々な角度から考察を加える。東京大学工学部卒、同大学院修了(工学修士)、コロンビア大学大学院修了(ファイナンス数学修士)、京都大学大学院修了(博士(経済学))。社団法人日本証券アナリスト協会検定会員。

ビットコインは完全にバーチャルでかつ無国籍な資産、それによって起こる変化に興味がある

東晃慈氏 内田さん自身はビットコインを知ることから入ったってことだったと思うんですけど。どこら辺にポテンシャルとか面白さを感じてるかとかっていうのを教えていただいていいですか。ピットコン、クリプト全般について。

内田 善彦氏 ビットコインとDeFiは切り口も角度も違うと思うんですけど、ビットコインはどの国にも属していないというところは非常に特殊な資産だなと思っています。資産と呼んでいいかはわからないですけど。

かつ、ビットコインは完全に想像力の賜物であって、完全にバーチャルなもの。

金であっても他の様々な資産であっても、有価証券と言われれば必ず後にバランスシートとかあるはずですし、そこには企業があるはずです。ということで、ビットコインは完全にバーチャルでかつ無国籍である。

これは、多分ファイナンスの世界では定義しづらい資産なんだろうなと思っていて。逆に言うとそれをうまく使うことによって、今までできなかったことができるようになる。または今までしづらいと思ってたものが簡単になる、こういったことが起こるんじゃないかなと思って興味を持ってます。

東晃慈氏 DeFiはそれでいうとどうでしょうか。

内田 善彦氏 DeFiは、スマートコントラクトというものが自律的に使われるというのが非常に興味があります。

やっぱり私は金融の人間ですので、金融取引というのは契約であると。

契約というものが有効か無効かというのは、六法全書なるものをめくって、そこに書かれている条文と一致性を議論するんですけど。

やっぱり言葉の使い方いかんでかなり曖昧なんですよね。曖昧なものってのは裁判所で裁判してもらって、判断するっていう枠組みがあるんですけども。

やっぱりかなり段取りは多いですし、法律という特殊なツールを使わないといけない。

どうせ特殊なツールだったらエンジニアリング的にSolidityでスマートコントラクトで書きゃいいじゃんみたいなところを感じましたので、これはすごいなあというのが私の一番最初のDeFiに対する感想です。

2番目は、DeFiで一番驚いたのは、DeFiのプロダクトを担保にしてまたDeFiのプロダクトを買えるというのを知ったときなんですね。

入れ子構造があると知ったときに、このよくわかんないだるま落としみたいなものっていうのは、どこまで高い塔を建てることができるんだと思ったんです。そしたらどんどんと高い塔が立った。

フラッシュローンは時間の概念を外した金融商品

内田 善彦氏 その次に、フラッシュローンが来たんですね。フラッシュローンは時間の概念を外した金融商品だと私は考えています。

で、実は金融ってのは元々マクロ経済学には登場しない概念なんです。

何かというとマクロ経済学ってのはその時点、その時点の財の交換をマクロで見るという学問なので、いわゆる異時点間、時点を変えるような装置というのはマクロ経済に要らない。これが基本です。

金融というのは、異時点間のその交換というものを実現する一つの手段として便利なものですし、人間が発明したもので金融を入れるということは、時点の概念を入れるということだとは思ってた、ずっと思ってた。

フラッシュローンを見て、やられました。全然違う。

もう本当にもうあの視野の外から、どーんと真ん中に、何か謎のものが来て、自分の今まで学んできたものは知ってたと思ってきたこと、これはかなり相対化されたなと思っていて。面白いなと思ってます。

東晃慈氏 フラッシュローンの話しましょうか。なまはげ何か聞きたいことありますか。

なまはげ氏 フラッシュローンというよりかは、基本的にはDeFiの入れ子構造の中で存在しているものだと自分は考えていて。

現在フラッシュローンていうと大部分はどちらかというとハッキングに使われているっていうところがあって。Oracleをいじるっていう攻撃方法がよくあるんですね。

Oracleっていうのは外部の価格データを、お金を借りてきて、外部の価格データを自分に有利なようにいじって、攻撃をして最後また動かして、お金を返すっていう一連の流れを一瞬でやるっていうことだったんすけど。

Oracleって基本的には時間の積み重ねで生まれていくものじゃないですか。例えば、昨日の価格はこれで、今日の価格はこれで、みたいな感じで価格データが積み重なって、今の最新の価格はいくらですかってなったのがOracleデータだと思うんですけど。

それを時間の概念をすっ飛ばして勝手に軸をいじくってる感じがあるんだなっていうのが今ちょっと新しい見方だったなという感じです。

軸をいじってかつ金融に合った時間のスパンっていうのを、失くしているっていうところが、これは結構フラッシュローンのOracle攻撃実は結構面白い、SF小説味のある攻撃だったんだなあと思って、ちょっと今感慨深いですね。

内田 善彦氏 実はOracleでやってることっていうのは、株式市場で似たようなことってよくやってたんですよね。

どっかからお金を借りてきて、価格操作して、相場で買ってお金を返すって。資本持ってない人が株式市場でラディカルなトレードしようとしたときに、やる手続きではあるんですよね。

実はそれが時間の概念がなくなると、実はこの種銭を借りるという行為が、かなりバーチャルになっている。それは普通思いつかないんですよ、金融のプロであればプロであるほど。

そんなことできない、だってお金を借りるというのは、単位時間、お金を人から借りてきて、その借りた代価として金利を払って元に戻すっていう発想なんですけど。

フラッシュローンてお金を借りた概念が曖昧なので、手数料て言葉で金利を置き換えてたりするぐらいで。

金融って時間をコントロールする性質の取引手段だったのに、さらに強烈な時間軸の速さみたいのを考えてて。

さっきビットコインの価格変動が量子力学的なジャンプって申しましたけど。

昭和の私から言うと、謎のものは四次元の世界から来たっていうような言い方をするんですけど、まさしくこれは金融というユニバースの外側からきた発想だと思ってます。

東晃慈氏 全体で見るとやっぱり内田さんはDeFiはすごく面白いっていうか、興味があるし今後も可能性あるんじゃないかって考えてるってことですかね。

DeFiの人たちが目標にすることの一つが、金融へのアクセスを自由にしようとか、フラットにしようみたいなことを言うことがあるんですけど、そういうことに関しては前向きというか。

DeFiは儲ける構造を具現化したものとしか思えない

内田 善彦氏 基本的には技術の進歩には失敗がつきものだなと思っているので、ものすごく大きな代価を払った結果、DeFiがなくなる可能性もあるんじゃないかなと思っています。

要は、DeFiという技術っていうのは、これから人類が優しく温めていって、さらに重要な金融取引のパーツとして育てたいところなんですけど。

目先の利益に目がくらんでる人たちがあまりに多くて、DeFiの周りの様々な事象というのは、私から見るとちょっと居心地が悪いことが多いですね。

東晃慈氏 具体的に何かそういう事例とかありますか。僕はDeFiのプロでは全然ないんですけど、外から見てる印象としては、コンセプトは僕すごくいいなと思うんですよね。分散型の金融、それをスマートコントラクトで表現してやるってのは可能性を感じるんですけど。

現状としては、謎のポンジスキーム構造のガバナンストークンを配ったり、トレードできるようにしてそれを担保にさらに何か謎のトークンを発行したりとか。

トークンあげるよっていうのをやってるだけでそこに生産性がないものが多いなってのが現状として感じるところがあるんですよね。ここら辺の現状についてはどう考えてますかね。

内田 善彦氏 私はDeFiトークンというものの謎の性質がまだ理解できていない。

分散された金融なんでしょうと。なんでかトークンみたいなのがあって、基本的に儲ける構造を具現化したものとしか思えない。だとするとこれってなんちゃって分散じゃないのっていうのはすごく感じますね。

ビットコインで言うと、やっぱりマイニングに伴うものの労力としてmintが行われるっていうのはmakeSenseするんですけど、DeFi自体っていうのは必ずしもマイニングみたいな行為と一対一で対応していない中で、mintも何か知らないですけど何か汗をかいたのが最初のなんかイニシャルのDeFiの構築みたいなところでって。

それでなんかトークンがあってそこでガバナンスという名のもとになんちゃってガバナンスが行われてるっていうのがあって。

分散金融という概念は非常に興味深いですし将来性あると思ってるんですけども、今の運用の仕方っていうのは近視眼的な人があまりに多いということがあって、いい技術というのはイニシャルのステートで使い方を誤ると禁止されてしまう恐れがあるので、警戒しています。

東晃慈氏 トークンを発行してそれで馬鹿儲けしようみたいな人が増えれば増えるほど。今そういう感じになってるってのが自分の認識なんですけど。

規制されてしまうリスクとかも、内田さん個人の選定になりますけど、当局考えそうなこととしては、そうなればなるほど規制しなくちゃいけないっていう、やっぱプレッシャーというかそういう考えが強くなるとこあるってことですね。

規制は能力が劣ってる側の人たちを守るもの

内田 善彦氏 規制って何のためにあるかっていう話が一番わかりやすいと思うんです。規制てなんか鬱陶しいものって思う人多いと思うんですけど。

言ってみれば横断歩道を渡るときに赤信号のときになぜ立ち止まるかっていうことと一緒で。

あれって車を通すためではなく、自分の安全を確保するために赤信号立ち止まってると考えると、規制っていうものがどういうものかってのわかってくるんですよね。

自分は轢かれないと思ってる人は信号無視するのかもしれないですけども、それみんながやりだすと、今度は交通システム自体が動かなくなるってことがある。インドネシアのジャカルタの道を渡るのすごい怖いじゃないですか。

東晃慈氏 ベトナム行ったことあるんですけど。一番最初行ったとき、通りを渡るのに10分くらいかかりました。信号ないので。現地の人はシュシュって行って、何やってんのって思った記憶ありますけど。面白いのは10分後くらいの時に自分も同じことやってるっていう。

内田 善彦氏 渡れる人が99%なんですけど、結構轢かれてる人が多くて。轢かれた人がいることが自然なので救急車呼ばないんですよね。自己責任を突き詰めるとそうなりますよねっていう。

信号もいらないですよねって話して。その逆側っていうのはやっぱり信号機があって信号機のところで赤信号を立ち止まれば、安全は保障されるという別の保障がついてくる。というのが、枠組みで。

これどっちがいいかっていう価値判断は私は入れるつもりはあまりないんですけど。そういうものなんだよとわかったところで、規制との距離感というのは考えていかないといけない。

ほとんどの規制というのは、能力が劣ってる側の人たちを守るものです。これはすごい重要なことです。いま例えば既にDeFiをメタマスクでグリグリやってるような人から見ると、規制は鬱陶しいはずです。鬱陶しいはずなんですけども、それはそうではなくて。

金融システム全体から見たときに、いわゆる情報劣位にある人たちがポンジスキームまたはそれに準ずるもので騙されないようにする。

またはDeFiで言うとやっぱスマートコントラクトはバグ怖いですけども。バグって監査されてるって言っても誰この人みたいな人が監査してるケースもありますから。

そういった意味で監査の確実性みたいなものを担保する。担保しようとすると、これで規制の枠組みでお墨付きがついた監査法人から監査されればみたいな話になって、なんでそういう紐付けるようなことするのって話になると思うんですけども。

情報劣位の人が安心してDeFiを使うようにするためには、それが必要だねっていう議論は存在します。私はこれがいいとは言わないですけど。

東晃慈氏 この界隈に居ると、価格が下がってなくて誰も損してないのに何で規制が必要なんだって真顔で言う人が多いんですよね。僕はそれは想像力がすごい欠如してるなというか。

裏でポンジスキーム的なトークンを発行してそれで価格が上がっていってるんだったら裏で絶対どっかのタイミングで損する人たちも出てくるわけで。何かそういう人たちを無視して、誰も損しないのになんで規制が必要なんだって結構言ってる人がいて、僕はちょっとそれはポジトークすぎなんじゃないのとか思ってたので。

今の話は非常に当たり前の話ですけど重要な話だなと思います。

同時になんですけど、今後規制が強くなっていくとDeFiアプリケーションを使うのにKYCしましょうねとか、何百万円以上の取引をするときは報告しましょうねって仮になったとしたら、そもそも今までの金融とあんまり変わらないものになっちゃうんじゃないのかなと思う部分もありまして。

DeFiを推してる人たちはどういうふうに落としどころを見つけるのかっていうのはちょっと個人としては気になってんだけど。

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