「セクター配分は考慮せず、ボトムアップの絶対評価で投資先の企業を選別する」中野晴啓氏 3/3

なかのアセットマネジメントの中野晴啓氏に、これまでのS&P500への投資ブームや今後のマーケット動向について伺いました。

中野晴啓氏 プロフィール

1987年、明治大学商学部卒業後、セゾングループの金融子会社にて債券ポートフォリオを中心に資金運用業務に従事。2006年にセゾン投信株式会社を設立、2007年4月に代表取締役社長、2020年6月には代表取締役会長CEOに就任、2023年6月に退任。同年の9月1日、なかのアセットマネジメント株式会社を設立。

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取材実施日

2023年11月10日

セクター配分は考慮せず、ボトムアップの絶対評価で投資先の企業を選別する

ーー10年後を想定して銘柄選択するのは難しいと思いますが、どのように選定しているのでしょうか。

おっしゃるとおり、10年後を正確に予想するというのは難しいです。なのでその時間軸ではざっくりとした予想に止めますが、5年後の各企業の姿は、一定の合理的な予測が立てられます。

マクロの環境や最悪のケースを考慮しながら仮説を立てて、その中でベストの株価はこれぐらい、ワーストケースでもこれぐらい、と株価を算定をします。

それを目標株価として設定し、各企業の事業が目標株価に見合った事業に成長するまでただひたすら持つ、それが長期投資の基本的な考えです。

ーー銘柄選定について、マクロの環境からトップダウンで各銘柄に絞り込んでいくのか、ボトムアップで分析、選定するのかどちらでしょうか。

基本的にボトムアップです。セクター配分も一切考えませんし、絶対評価でいい企業を探します。アナリストの得意不得意、好き嫌いもあるので偏るんですが、全ての企業を見る必要はないので、それは構いません。

だから、「あのファンドは小売りが多い」など、それぞれのアクティブファンドに個性が出ます。いろいろと癖があるのが当たり前なんです。

マクロ経済を分析した上で、各企業が取り組む事業そのものの事業価値を根っこから算定するのが基本的な作業です。

その企業のテクノロジーにどれだけの優位性があるか、それが将来製品化されてどれだけのマーケットを得られるか、このようなロジックを積み上げて仮説を立てる。

産業そのものの成長も加味して、マーケットシェアがn%取れればこのぐらいの売上になる、利益率がアップしてこれくらいの利益になる、とボトムアップで細かく算定します。

ーーその場合、全体の方針となる戦略のすり合わせが重要だと思いますが、中野さんと社内のアナリストの方でどのように戦略を決めるのでしょうか。

大事なのはロジックで仮説を立てて将来キャッシュを算定していくことです。

そのため、企業を分析する目線だけはみんなで合わせておきますが、それ以上の企業の探し方や分析については各アナリストが自由に判断しています。

そして、最終的には、アナリストが探してきた銘柄の中から、どこに投資するかファンドマネージャーが判断します。

大手の場合、アナリストがセクター別に分かれていて、化学のアナリストなら化学しか分析しません。それで、ファンドマネージャーも化学から一つ、自動車から一つと選定していくので、段々とつまらないポートフォリオになっていくんです。

だから、アクティブ運用の世界は、大きい会社が有利、小さい会社が不利というのは全くありません。会社ごとの運用哲学、考え方の問題なので、大手も中小も関係なく戦えるんです。

忍耐力がなければ数十倍のリターンは得ることができない

ーー投資で成功するために最も重要なものはなんでしょうか。

忍耐力です。価格が下落したときだけではなく、上昇したときの忍耐力も重要です。

例えば、ニトリの株価は数十倍になりましたが、その数十倍のリターンを取れている機関投資家はほぼいません。

忍耐力がなければ、2倍程度ですぐに売りたくなってしまいますが、それを乗り越えなければ数十倍というリターンは得ることができません。

ピーター・リンチが目覚ましい成果を上げられたのも、強烈な忍耐力があったからだと思います。

▼ニトリホールディングスの2009年以降のチャート。2013年ごろから大きく価格が上昇している。

ーー忍耐力を持って簡単に売ってしまわないためにできることはありますか。

哲学通りにバリエーションをしっかりと持つことです。事前に想定した、その企業の長期的なバリエーションはもっと高いと考えられれば、どれだけ上昇しようが売ることはありません。

将来的な価格が10万円だと信じられるならば、1万円から2万円まで2倍に上昇しても、忍耐力を持って耐えることが可能だと思います。

自身のその銘柄に対するバリエーションがふわふわしていると、売りたくなってしまうんですね。だから、企業価値の算定は長期保有する上ですごく大事なんです。

ビットコインはほかのコモディティと同じで値動きがリターンの源泉であるという認識

ーー当メディアではビットコインに注目し、トピックとして多数取り上げていますが、機関投資家側としてビットコインをどのように見ているか教えてください。

特に何の否定もありませんが、ほかのコモディティと同じで、値動きがリターンの源泉であるという認識です。なぜなら、少なくともいま時点では、ビットコイン自体がなにか新しく付加価値を生むものではないからです。

そのため、個人的には、ビットコインだけで資産を作ろうとすると、どこかで足を滑らせる可能性が高いだろうとは思います。どれだけマーケットを分析しようとも、予想を当て続けられる人はいないので。

あっという間に3分の1に下落したり、戻して3倍になったりと、面白いのはよくわかります。しかし、そういったもので楽しくトレードしつつ、並行して、新たに付加価値を生み出すものを持ち続けるのも悪くないと思います。

ただ、多くの個人投資家は分析時間が確保できません。そういった意味で、投資信託の存在には意味がありますし、運用会社、運用者を選ぶ目を養ってほしいと思います。

なかのアセットマネジメントはほかのファンドと何が違うのか

ーーなかのアセットマネジメントの特徴や魅力について教えてください。

一番誇りを持っているのは、お客様の質が高く、長期投資の価値観や目標を共有したお金でファンドが営まれるということです。

昨日買ってくれたお客様が今日売ってしまうようでは運用にならないわけで、同じ目線を持ってくれる投資家に集まってもらいたいと考えています。そのためには、なかのアセットマネジメントが目指すものに対しての共感、深いコミットメントが必要です。

実際、私は前職でそのような信頼関係を構築することに16年間注力しており、それにふさわしい顧客マーケットを築いてきましたし、そのような想いで参加してくれるからこそ、ファンド側も命がけの受託者責任を果たそうという気持ちになるんですね。

これらを徹底的に追求していけば自ずと結果は出ますし、結果が出るからこそ、皆さんの信頼が高まり、名声になって、会社が成長していく。

多くの運用会社は、順番を間違って、たくさんお金を集めたいということから始まってしまいますが、そこからスタートしてしまうと、運用の本質が損なわれてしまうんです。

ビジネスである以上、お金を集めたいというインセンティブは当たり前ですが、運用に携わる者はそこに行ってはいけないんです。

高度なプロフェッショナルを尽くせば、それ相応の結果が出て、きちんと評価されて、その評価が企業の成長に繋がる、この順番を間違えてはいけません。

この順番を間違えている会社のことをアセット・ギャザリング・カンパニーと言います。アセットマネジメントではありません。短期間で何千億円も資金を集めるファンドは、アセットマネジメントではないんです。

「人気です」「こんなに売れています」「販売会社で一番です」このようなファンドを購入するのはおすすめしません。

ーーなかのアセットマネジメントの運用開始はいつ頃を予定していますか。

金融庁への登録も必要で多少ズレる可能性もありますが、いま時点では、2024年3月を運用開始として準備を進めています。

2024年3月から始まる、中野晴啓氏のゼロからのスタート

ーー最後に、読者にメッセージをお願いします。

私はセゾン投信で16年間、トップとして運営を行ってきましたが、人生は本当に何が起きるかわかりません。まさか自分がクビになるとは考えていませんでした。

自分が間違ったことをやってきた気持ちは全くなく、むしろ正しいことを貫いてきた自信があり、もう一度ゼロからやり直そうと考え、なかのアセットマネジメントを立ち上げました。

世の中の、たくさんの人たちの励ましの声が、私を奮い立たせてくれたんです。

だから、いまはすごく幸せですし、この年になってもう一度チャレンジできることにすごくワクワクしています。歳は若くはありませんが、その分、積み上げてきた経験値は日本でも有数だと思います。

そういった経験値と、自分が見据える未来への共感をいただけるのであれば、ぜひ一緒に長期投資に取り組んで欲しいです。

なかのアセットマネジメントにご期待ください。

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中野晴啓氏のインタビュー、前のインタビューはこちら

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