イチゴ農家のかたわら飲食店などを相手にしたテナントビルを運用している夏目氏。高校生の頃から株式投資を始めたが、実際に現場に足を運び、自分の目で確かめることをモットーにしている。そんな夏目氏に投資に向いている人や、投資を始めたい人へのメッセージなどを聞いた。
インタビュー・編集:内田 誠也
執筆:山本 裕司
夏目氏(仮名) プロフィール
大学を卒業後、伊藤忠に入社。その後大手百貨店、食品メーカーを経て現在は不動産投資及び農業に従事。10代から株式投資を開始し、最大で1,000万ほどを運用。その資金を元手に不動産投資を開始。現在は地方にてスナックビルを3棟、7階建てのマンション1棟、区分マンションを保有。
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相場を見続けられる人、投資に疲れてしまわない人は投資に向いている
――投資に向いている人はどんな人だと思いますか。
価格の上がり下がりに一喜一憂しない人。相場を見続けられる人、投資に疲れてしまわない人だと思います。
結局、めげずに取り引きし続けられる人が一番強いと思います。
私はせいぜい株で1,000万円ほどの資産しか作れなかったので、あまり偉そうなことは言えないのですが。
たまに、100万円を元手に1億円まで増やしたなどと言って株式投資で成功した人の話を見かけますが、そういう人は1億円に増やせるまでの価格や資産の上下に耐えられたわけで、私はすごいと思います。
――夏目さんは、株式を購入してもあまり価格のチェックはしないのでしょうか。
私は毎日見られませんでしたね。
リサーチしているときは楽しくてしょうがないんですが、実際持ってしまうと、もう怖くて怖くてやめたくなるんですよね。
株価の上下に一喜一憂したり、ビルならテナントが全く入らなかったらどうしようとか、不安なことばかりです。
それで、30歳前くらいに株はほとんど売って、インデックス投資に変えました。不動産投資を始める少し前です。
でも、高校生から始めて30歳くらいまでですから、10数年はやっていたんですね。思ったより長くやっていたな、という感じですね。
チャートや指標だけでなく実際に店や売り場も見る
――ほかに、投資に向いているタイプはどんな人だと思いますか。
自分がそうだから、というわけではないですが、研究熱心な人だと思います。僕もあれこれ、企業のことや物件のことを調べるのは好きですね。
何を買おうかと考えているときが一番楽しい。買ったら、後はつらいことばかりですね。
――研究というのは、数字や指標のことですか。
チャートやテクニカル指標で売りか買いかを判断するというのは、私はあまり好きじゃないんです。ファンダメンタルズで投資したい気持ちが強くて、実際、投資先をよく知ることが大切だと思います。
四季報やIRの資料を見れば、ある程度のことは分かりますが、それだけでは分からないことは多い。
私の場合は飲食チェーンや小売業者の株を買っていましたが、実際に店や売り場を見ないと分からないことがあります。
品ぞろえとか、店員に対する教育とか、現場を見ない限り分かりません。
ウォーレン・バフェットも「分からないものには投資しない」って言っているじゃないですか。実際、コカ・コーラが大好きで、毎日飲んでいるそうですし。
暗号資産は何を売り買いしているのか分からない
――不動産投資でも必ず現地に足を運ぶのですか。
実際に物件を見ることが大切ですし、周囲の環境や立地条件を見て需要があるか、あるとすればどのような需要があるかなどを見極める必要があります。
電話で不動産業者にお願いするだけでは、絶対にうまくいきません。顔も見せずに電話だけであれこれ指示だけしてくる客に、良い物件を紹介してやろうなんて気持ちにはなりませんよね。
――暗号資産に対してはどのように見ていますか。
暗号資産は正直よく分からないです。暗号資産は何を売り買いしているのでしょう。価値の裏付けになるものがよく分かりません。
株式や不動産投資は、実際の経済活動を反映していて、普段の生活から予兆を感じたりヒントを得たりできます。
私は吸収されそうな会社の株を買っていましたが、そうした会社の実力は株価にも反映されていて、経営基盤がしっかりしているほうが株価も高い。
その点、仮想通貨は時生活との接点はほとんど感じられませんし、何によって価格が決まるのかが理解できない。
何を売り買いしているのか分からないというのは、そういう意味です。
社会の仕組みに興味がある人は株式を勉強してみるといい
――株式投資を始めたい人にメッセージをお願いします。
株式投資はめちゃくちゃ面白いですよね。
値上がりや値下がりを予想するのも面白いですし、単に売買するだけではなく、多くの投資の方法があります。それに株式の勉強をしていると、実生活のさまざまなことがわかってくる。
社会の仕組みなどに興味がある人は、株式を勉強してみるといいと思います。絶対に楽しい。
損をしたときや、なかなか値上がりしないときは苦しいこともありますけど、一発儲けてやろうという気持ちにならずに、気楽に取り組んだら楽しいと思います。
不動産は業者と客の情報格差が大きい、関係性を構築することが大切
――不動産投資についてはどうでしょう。
不動産投資を始めようと考えている人が大切にしなければならないのは、人と人のつながりですね。
投資用の不動産物件を購入するにあたって、物件選びから、購入、リフォーム、テナント探し、管理と一人では到底完結しません。必ず誰かに頼まなければなりません。そのとき、人間関係を大切にしない人はだめですね。
私は、地元の主のような不動産業者と懇意になれたことで良い物件を紹介してもらえるようになったんですが、実は親密な関係になれるよう、しばらくその周辺に入り浸っていました。
そうやって、関係を築くことで不動産業界のことも見えてくるし、不動産業者に好かれる客と嫌われる客も分かってきます。
――どんな人が不動産の業者に嫌われるのでしょうか。
シンプルに不動産の業者に偉そうで嫌な客ですよね。
金に糸目はつけないから、一番いい物件を持ってこい、みたいに札束で横っ面をはたくような取引ができる大金持ちはそれでも通用すると思います。
でも、お金もないのに、偉そうだったり対応の悪い客は嫌われます。
ローンの審査が通らなければ物件を買えないような人が偉そうにしても仕方がありません。
不動産の仲介では、仲介料がかかりますよね。それを値切ろうとする人もいます。
仲介料は法律で、売買金額の何%と割合が決まっていて、一定以上、多く請求することも値切ることもできないのですが、いきなり仲介料の値引きの話をしてくる人がいると聞きました。
あの客には筋の悪い物件を紹介してやった、なんて不動産の業者が陰口を言っている姿を何度か見ましたね。不動産業者も商売といえど人間ですから。
逆に手土産を持って行ったり、「飲食業界の現地調査」と称して、キャバクラなどに連れ出したりしたら人間関係もできる。これも現場を知ることの一つです。
だから、不動産業者の報酬を値切るようなケチなことはしないほうがいいと思います。
不動産は、業者と客の間の情報格差はとてつもなく大きいです。だから、教わるという謙虚な気持ちを持つことが大事。
親密な関係になることができれば、良い物件が出たときに真っ先に連絡してくれたり、耳寄りな情報を教えてくれることもあります。
投資は受動的で難しい、農業は自分主体で作物と向き合えることが楽しい
――これまで株式投資と不動産投資、農業と取り組まれて、ご自身は何に一番向いていると思いますか。
農業じゃないですかね。
株は10年ほどやって、成功したり失敗したりで、100万円の元手を1,000万円とそれほど大きく増やすことができなかった。値下がりするとすぐに心が砕かれるので、株式投資をするには、そんなに気持ちが強くないのかもしれませんね。
アベノミクスが始まった後、株価が一斉に上昇してみんな儲かったと言っていましたけど、私はそれほど儲からなくて。なんで自分だけこんなに利回りが低いんだろうと悩んだこともあります。
不動産投資も最初は上手くいきましたけど、コロナ禍を受けて今は苦しい日々です。
そう考えると、投資って自分ではどうにもならないときがありますよね。株価の変動も自分ではどうしようもできない。だから、投資って受動的なものだと思います。
自分では思い通りにならないものに、ずっとついていってチャンスをうかがう。そんな精神力の強さが求められます。
農業は自分主体で作物と向き合える。土の作り方や肥料、水の管理などで作物の生育は大きく変わります。それを見ているとすごく楽しい。
スマホゲームなどでよくある育成ゲームと同じ感覚ですよ。
――東京から地方に行って農業を始めたんですよね。苦労はありませんでしたか。
ええ、私は東京出身ですが、両親は地方の出身なんです。だから、地方の生活は苦になりません。地方の街はのんびりできて、物価も安いし、暮らしやすいですよ。
農業も日々勉強です。やはり勉強するのが好きなんでしょうね。
不動産投資もなんとかしなければいけませんが、今はイチゴ栽培に一番力を入れたいと思っています。今は生食のイチゴだけですが、イチゴのスイーツも開発してみたいですね。
商品開発や営業の経験を生かして、売り込みに力を入れたり自身でお店を出したりもやりたいと思っています。
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