「米国がインフレ前提の経済から脱し切れないならば長期金利は下がらず、株式市場にとってはネガティブ」中野晴啓氏 1/3

なかのアセットマネジメントの中野晴啓氏に、人生で最初の取引や最近のマーケットについて伺いました。

中野晴啓氏 プロフィール

1987年、明治大学商学部卒業後、セゾングループの金融子会社にて債券ポートフォリオを中心に資金運用業務に従事。2006年にセゾン投信株式会社を設立、2007年4月に代表取締役社長、2020年6月には代表取締役会長CEOに就任、2023年6月に退任。同年の9月1日、なかのアセットマネジメント株式会社を設立。

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取材実施日

2023年11月10日

ブラックマンデーの洗礼を受けた1987年の取引

ーー人生で最初の取引について教えてください。

私がセゾングループの子会社に新卒で入社したのは1987年ですが、その頃は日経平均株価が2万5,000円ほどで、1989年の3万8,900円という歴史上の高値に向けてどんどん右肩上がりしていた、何を買っても儲かる時期でした。

そういった狂乱の時期に、面白がって個人として短期売買を始めたのが最初ですね。

ーーその頃は会社の業務としてではなく、個人として取引されていたということでしょうか。

はい、会社では経理を担当していたので、個人としてです。

ネット証券ももちろんまだない時代で、会社の社員全員が堂々と業務中に電話で注文して、株取引していました。みんなバンバン儲けていましたね。

ーー当時は新入社員であまり個人で株式を取引する資金はなかったかと思いますが、取引のための資金はどうしたのでしょうか。

当時は「トヨタの株を1,000株買うのでお金を貸してください」と言うと、証券会社やノンバンクが必要な資金を全部貸してくれたんですね。

さすがに無担保とはいかず、買った株券の預かり証を担保にする必要があるのですが、それでもそうやってお金を借りて売買ができました。

ーーそれで取引はうまくいったのでしょうか。

最初はトヨタのような大型株の株式を取引していましたが、値動きも知れています。

それで、当時は店頭市場と呼ばれていた、かつてのマザーズのようなマーケットで取引を始めたのですが、値動きが大きいので、バンバン儲かるわけです。

喜んで取引していましたが、1987年にブラックマンデーが起きました。

▼1985-1987年の日経平均株価のチャート。ブラックマンデーが起きた1987年10月に最大で20%以上、価格を下げている

私は、2,000万円以上、証券会社やノンバンクから借り入れて個別株を買っていたのですが、なんとその株式の価格が買値から半値以下になったんですね。

年収は300万円、どのように返済しようか、いや返せないなとなり、最後に一発勝負して、当てられなかったら自己破産だと覚悟を決めました。

そして、値動きが激しい株式に一気に投資したんですが、奇跡的に価格が倍になって、全額返済して、取引はやめました。

ーーちょうどバブルの頂点で取引されていたのですね。

はい、おっしゃるとおりです。

その頃は、株式に限らず、1,000万円のゴルフの会員権が2億円、3億円まで上昇して、最後にバブルが弾けて、ゴルフ場も倒産して価値がゼロになるという、すごい時代でしたね。

かつての職場でも、開業前のゴルフ場の会員権を5個も6個も買って、全部紙屑になって自己破産して失踪、という方がいらっしゃいました。

それで個人的な取引はやめたのですが、それから2年目以降は運用部門に配属され、仕事として真っ当な運用業務を開始しました。

プライシングの崖に注意し、割高な取引に手を出さない

ーー個人投資家の参考になるエピソードや教訓があれば教えてください。

下手に割高な取引に手を出さないということですが、例えば、日本国債は債券の中で一番割高です。なぜならば、銀行、保険会社、運用額の大きい投資家など、制約がある投資家による買いが圧倒的に多いからです。

制約投資家はBIS規制などの制約で基本的にジャンクボンドを買えません。それで、巨大な資金をどこで運用するかというと、国債を買うしかないんですが、そういった市場の歪みにより、国債はどんどん割高になります。

一方、私たちはそういった制約がないため、わざわざ割高な国債を買う必要はありません。割高なものはそれにしか手を出せない人が買い、私たちは彼らが手を出せない、ほかの魅力的な債券を買えばいいんですね。

一番美味しいのは、BBプラスのジャンクボンドです。

BBB以上の債券は投資適格、BB以下は投機的格付けと線が引かれていますが、BBBの会社とBBプラスの会社の中身というのは、それほど大きくは異なりません。

大きくは異ならないのですが、銀行などの制約投資家は投資適格債しか買えず、そのため、BBBの債券とBBプラスの債券の間にはプライシングの崖があり、私は一番美味しいBBプラス、そういった債券を狙って運用していました。

機関投資家など、大きいプレイヤーほど取引において有利な印象があり、実際そういう面も確かにありますが、大きいプレイヤーだからこそ手が出せない、出しづらい取引があるのも事実で、個人投資家もうまく立ち回れれば投資妙味があると思います。

ーーおっしゃるとおり、個人投資家にも参考にできそうなお話です。

このような債券は億単位でしか取引できないため、個人投資家がそのまま参考にするのは難しいと思いますが、同じような崖、歪みは債券以外のマーケットにも存在します。

例えば、山手線の内側は一等地ですが、西巣鴨まで行くと、山手線の内側からそれほどまだ離れていないにも関わらず、大きく価格、賃料が下がります。

大手町もすごく賃料が高いエリアですが、川を越えて神保町までいくと、大きく賃料が下がりますね。それほど物理的距離は離れていない、利便性もあまり何も変わらないのに、です。

取引にはこういった発想がすごく大事です。

マーケットは3日続けて下落するとリバウンドすることが多いが、コロナショックでは1週間も下落し続け驚いた

ーー印象的なマーケットのイベントについて教えてください。

2020年のコロナショックは衝撃的でした。特に狼狽売りなどはしませんでしたが、これほど、毎日価格が大幅に下落するマーケットというのは、コロナショック以外には記憶にありません。

大体、マーケットは3日続けて下落するとリバウンドすることが多いのですが、1週間も下落し続けて驚きました。

「絶好の買い場」「明後日にはリバウンドしますよ」と会話していたのですが、そのまま下がり続けましたね。

▼2010-2020年の日経平均株価のチャート。コロナショックが起きた2020年3月に最大で30%以上、価格を下げている

平和な時期ではないためエネルギー価格の方向性は見通せない

ーー当時、売買はされましたか。

いいえ、売りも買いもしていません。

持っているキャッシュは既に何らかの投資に回していましたし、30年の経験で、戻るときは大きく戻すと考えていたので、売りもしませんでした。

コロナショックに限らずですが、マーケットが激しく一気に下落するときは、戻りもエネルギーがすごいんですね。100下がって、1ずつ戻していくというのは、あまりありません。

ーー一週間も下げたことには驚いたとのことでしたが、冷静にマーケットを見ていたのですね。

マーケットにおける経験値が積み上がるほど、こういった知識が積み上がって冷静に対処できるようになるので、資産運用という仕事は頭がぼけない限りずっと価値が増えていきます。

経験が増えるほど、予測できる範囲が広がっていくんですね。

なので、いま、債券を取引している若いマネージャーは低金利の時代しか経験していないので、最近の米国金利の急騰にはうまく対応できなかったんじゃないかなと思います。

長期金利というのは、上がり始めると止まりません。株のように、短期間にリバウンドしないんですね。

長いスパンでファンダメンタルズを反映して動いていくものなので、ファンダメンタルズやマクロの経済環境そのものがある一定のラインまで到達しないと、反転しないんです。

ーー最近は米国の長期金利は上がり続けていますね。

ようやく天井が見えてきましたが、まだわかりませんね。不確定の要因が戦争にあるので。

一方で、原油の需要が低下してきています。イスラエルで戦争が始まったときには急騰しましたが、その後は落ち着いていまはもう70ドル台です。

採掘コストが上がってきており、70ドル台では産油国は財政赤字になる水準で、困っていると思います。

赤字では困るので、掘るのをやめて需給が締まって、また原油が上昇していく。これの繰り返しですね。

有事は突然起きて、エネルギーマーケットを極端な方向に向かわせます。現在は、平和な時期ではないので、エネルギー価格の方向性は見通せません。

米国がインフレ前提の経済から脱し切れないとすれば、長期金利は大きく下がらず、株式市場にとってはネガティブ

ーー株式の個人投資家がいまのマーケットで気を付けるべきことはありますか。

現在の米国の株式市場に割安感はなく、いま溜まっているエネルギーは下の方に向かうでしょう。

S&P500の現在の予想PERは19倍ほどまで上昇しており、リセッションしなかったとしても、2024年は減速でほぼ間違いありません。

参考:【米国株】S&P500の予想PERは19倍。高いPERはその後のリターンに影響を与えるのか?【9/6 マーケット見通し】 | ファミリーオフィスドットコム

米国に限らず、ヨーロッパのマクロ経済はより一層弱く、マイナス成長の可能性もあります。

その場合、これまでは金融相場で株価が維持されている面もありましたが、企業の期待成長率が落ちることで価格は下がるでしょう。

一方で、長期金利はあまり下がらないと予想しており、金利が高止まりすればグロース株の価格はなかなか戻らないと見ています。

ーー長期金利があまり下がらないと考えている理由を教えてください。

米国はインフレ率2%を目指していますが、到底そんなところまでは落ちないと見ているためです。

エネルギーコスト、例えば原油が50ドル、40ドルと下落すれば話は別ですが、それはもはや想定しにくいでしょう。

▼2017年以降のWTI原油CFD/USDのチャート

一方で、ゼロエネルギーの開発は開発コストが上がって行き詰まってしまっており、結局、悪い悪いと言いながらも、化石燃料を使わざるをえません。そうしなければ、電気が使えなくなってしまいます。

このような背景により、どうしても今後のエネルギー価格は高止まりしてしまうはずです。

エネルギー価格が高止まりするということは、全ての産業界にコスト上昇を強いるということで、モノの値段はあるところ以上は下がりません。

そしてもう一つ、人手不足も問題です。

日本だけ賃金が上がらない状況となっていますが、米国も最近は比較的落ち着いてきてはいるものの、賃金は今後また上がるはずです。

最近もストが行われていて、自動車の労組と、これから数年かけて賃金を2割上げると約束していました。日本は数年間で3%の賃金上昇を掲げていますが、桁が違います。

このように、賃金はどんどん上がっていく方向にありますが、なぜ米国ではそれだけ賃金が上げられるのかというと、それはインフレでも稼げる基礎的なマクロの経済力、稼ぐ力があるからです。

それが、日本と米国における、潜在的な経済力の大きな差です。

米国がインフレ前提の経済から脱し切れないとすれば、長期金利はそう大きく下がりません。その場合、もちろん株式市場にとってはネガティブですし、そういった状況を織り込み始めるとマーケットは過剰反応するため、近い将来、大きな調整が訪れると考えています。

そういった事態は、いまから想定しておいた方がいいです、そして実際に起きたらうろたえないことですね。

マーケットのタイミングで投資する人にとっては、もしかしたらキャッシュ化を検討する時期なのかもしれません。

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全3回の中野晴啓氏のインタビュー、2記事目に続きます。

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