セミリタイア九条氏に、不動産投資における借り入れの苦労や表面利回り7%の内訳について伺いました。
セミリタイア九条氏 プロフィール
2018年FIRE済み。米国株、クリプト、優待クロス、太陽光、不動産、オプションなどなどを行うインデックス投資家でリバタリアン 。ポイ活、クレカ活用なども。ブログ「FIRE: 投資でセミリタイアする九条日記」
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取材実施日
2023年9月8日
不動産投資では金融機関からの借り入れに苦労
ーー現在保有されている物件について、投資するまでに大変だったことを教えてください。
今回の物件では物件購入費用の借り入れに苦労しました。
当初、私が保有する太陽光発電の投資を行っていた法人から今回の物件への投資を考えていたのですが、その事業で借り入れた分の与信枠は不動産では使えない状況でした。
仮に私の与信枠が1億円で太陽光発電の投資で6,000万円分の借り入れを行っていたとすると、残り4,000万円分しか不動産投資では借り入れられない、といったイメージです。
さらに、その法人は太陽光発電への投資により一時的に債務超過となっていたのですが、金融庁のガイドラインにより債務超過状態にある借り手には融資できないと規定されています。その意味でも借り入れが困難な状況だったのです。
今回はたまたま会社員時代から保有していたまっさらな法人があり、その法人で借り入れすることができましたが、その法人がなければ個人で融資を受けるか、新たに法人を設立しなければなりませんでした。
ーー当初考えていた法人とは別の法人により借り入れできるようになったとのことですが、法人の保有は共通して九条さんです。それは問題ないのでしょうか。
銀行は私と私が保有する全ての法人を総合的に評価しますが、金融庁の指導では人格ごとに個別の信用評価が必要で、債務超過の法人Aには融資できないがオーナーが同じでも真っさらな法人Bなら融資可能、という判断だったんですね。
「九条さんには融資できますが、貸せる人格は別の人格を用意してください」ということだったのです。
銀行ごとに解釈が異なるかもしれませんが、私が利用した金融機関ではこのような基準が適用されていたようです。
普段から金融機関と信頼関係を築いておくことが将来の借り入れに繋がる
ーー借り入れについて何行ほど相談しましたか。
最初に打診した2行では審査に落ち、3行目でようやくお金を借りることができました。
すべて地銀ですね。特に以前から付き合いがあったわけでもなく、今回はじめて相談した銀行です。
ーー今回の借り入れでの学びはなんでしょうか。
不動産投資はいかにお金を借りられるかのゲームであり、普段から金融機関と財務状況共有などのコミュニケーションをとり相手との信頼関係を築いておくことが、将来の借り入れにおいてスムーズな進展につながるということです。
今では、審査後にお取引ができなかった銀行にも継続的に相談したり、現在の状況を伝えるようにしています。
不動産投資では5倍、10倍の高いレバレッジをかけながら長期的に保有するといった株式やコモディティではありえない取引が可能
ーー2021年に現在の物件へ投資されてから約2年が経過しますが、現在時点で今回の投資は100点満点で何点でしょうか。
利回り的には悪くないため80点ほどです。
ーー80点の理由を教えてください。
株式投資の収益構造は理解しやすいものですが、不動産投資の収益構造はかなり複雑です。
私の保有する物件の表面利回りは7%ですが、その7%の内訳を表したのがこの図です。
表面利回り7%のうち、「金利」は金融機関への支払い分です。
「キャピタルゲイン」の2%は、最終的に物件を売却したときに利益として戻ってくる想定のお金です。
残りの3%はキャッシュフロー、いわゆる収入と経費ですね。
これらの数字をもとにして考えてみましょう。1億円の物件に対して2,000万円を手元のキャッシュ、差額の8,000万円を金融機関からの借り入れで支払った場合、2,000万円の初期投資に対して毎年1億円の2%、200万円のキャッシュフローが発生するため、持ち出しの2,000万円に対するリターンは10%になります。
さらに「キャピタルゲイン」の数字は含み益として徐々に積み上がっていくもので、合わせるとすると投資額2,000万円に対して毎年20%、400万円のリターンが出る計算になります。
私はこれは悪くない取引だと考えており、それで80点をつけました。
ーー投資している物件価格に対するキャッシュフロー、キャピタルゲインが合計4%と考えるとリターンが小さく見えますが、持ち出しの2,000万円に対するリターンの割合で考えると合計20%となり魅力的に見えます。
その通りです。
実は、不動産は他の投資商品と比較してレバレッジが掛けやすいという特徴があります。
不動産価格は大きなサイクルで変動する傾向がありますが、不動産投資はロスカットの仕組みがないため、価格が下がっても上がるまでずっと保有し続けるという選択が可能です。
5倍、10倍の高いレバレッジをかけながら長期的に保有するという、株やコモディティではありえない取引が可能なんですね。
これがレバレッジをかけて不動産を購入する最大の理由であり、いかにお金を借りられるかが大事だと述べたのもこういった背景のためです。
ーー借入の絶対額はどのようにして増やすことができるのでしょうか。コントローラブルなのでしょうか。
金利や借り入れ可能額などの借入条件を上げることは簡単ではありません。
プライム上場企業の会社員や公務員、医者であったり、年収が1,000万円から2,000万円以上あれば借入条件は良くなりますが、逆にこれらに当てはまらない場合は条件は非常に厳しいものになります。
この点からも、与信力を持った会社員ほど活かさない手はないと考えられます。
日本の長期金利の上昇により毎月のキャッシュフローにネガティブな影響を及ぼしている
ーー80点の満足度であることのポジティブな面を回答いただきましたが、マイナス20点の要因はなんでしょうか。
一番の要因は、金利の上昇です。
住宅ローン金利は短期プライムレートに連動し、不動産投資用ローンは長期プライムレートに連動していますが、長期プライムレートは日本の長期金利の利回りに連動し上昇しています。
最近のYCCの緩和によりキャップも外れ、今後は1%まで上昇する可能性もある状況です。実際、既に0.5%近くまで上昇しています。
この上昇は想定外で、今回の投資にネガティブな影響を及ぼしています。
参考:日銀がYCCの運用を柔軟化:識者はこうみる(REUTERS 2023年7月28日)
ーー具体的にはどのような影響が発生しているのでしょうか。
投資にあたっての借り入れの支払い利息が増えるので、直接的に毎月のキャッシュフローが影響を受けます。レバレッジの良い面を先ほど話しましたが、今回のような状況ではネガティブな方に働くんですね。
理論上は金利が上昇すれば物件価格も上昇し、賃料にも転嫁されますが、不動産賃貸契約は、既存の入居者が退去しなければ賃料をアップできません。
したがって、毎月の金利の負担が上がる一方、家賃収入は上がらないという状況です。
致命的ではありませんが、このような要因によりマイナス20点としています。
ーー長期金利について今後についてはどのように見ていますか。
今後の予測は難しいですが、しばらくはこの水準が続くのではと考えています。
インフレも落ち着きが見られますし、日本のインフレはコストプッシュインフレ型です。
原油価格が下がり、為替相場もまだ円安方向に振れていますが2022年のような急激な悪化はなくなりつつあり、インフレの面では安定感をもっているように見えます。
したがって、個人的に、今後は金利が急激に上昇することはなく、比較的安定していくのではないかと見ています。
長期金利だけではなく火災保険料も上昇
ーー現在の状況に対して、不動産投資家としてできることはありますか。
不動産投資家としてとれる選択肢は限られています。
考えられるとすれば、より金利の安い金融機関への借り換えですが、それも今は手間とコストの方が大きいかもしれません。
物件価格が上がりつつあるため、物件の売却も考えられますが、私の場合はまだ投資から2年ほどしか経過しておらず、売却しても利益があまり出ません。
一般的に、不動産投資は物件を長期保有し10年後などに売却するのがよいとされており、特に都心の土地の価値はまだ上昇していることから、私の場合は慌てて売却する必要はないと見ています。
ただ、最近は金利だけでなく火災保険料の上昇も気になっています。
ーーなぜ火災保険料が上昇しているのでしょうか。
現在、損害保険会社は凄まじい赤字に直面しています。最近も台風などの自然災害が多く、保険部門が赤字になっていることから積極的に値上げしているようです。
火災保険料は保有物件の経費の一つであり、値上げはダイレクトにリターンに影響を及ぼします。
ーーどのくらい上昇しているのでしょうか。
2022年には全国平均で10.9%引き上げられています。
火災保険は高額なので、このペースで上昇し続ければかなり負担が増えることが予想されます。
参考:2022年に火災保険大幅値上げへ 参考純率全国平均10.9%引き上げ・最長5年に
ーー不動産の全体的な市場についてどう見ていますか。
率直に言うと、わかりません。現在の日経平均がピークかわからないのと同じです。
ただ、繰り返しになりますが、不動産投資は借入をして元本を少しずつ減らしていく投資で、現在価値が高いか低いか悩むのであれば、早く買ってしまい少しでも早く元本を減らしたほうが良いと思います。
私の収益構造では表面利回り7%のうち2%を元本返済に充てており、これは不動産の価格が毎年2%下がっても損しない計画になっています。
したがって、悩む時間があるならば、買って、積極的に返済していく方が良いのではないでしょうか。
不動産投資はハードルは非常に高いが、投資できる環境にある場合はそれを生かさない手はない
ーー最後に不動産投資に興味を持つ読者にメッセージをお願いします。
不動産投資は魅力的な投資手法の一つであることは間違いありませんが、実際に投資できる方は限られています。
良好な融資条件を引き出すためには最低でも年収1,000万円以上を求められることが多く、それ以下では不動産会社が真剣に取り合ってくれる可能性は低いです。
年収以外でも、1棟もののアパートを1億円で購入、持ち出しが2,000万円で借り入れが8,000万円と仮定すると、仲介手数料や登記費用などの諸費用を加えて最低でも初期費用で2,600万円程度のキャッシュが必要です。
さらに投資後に空室が続いたり、建物に破損などの問題が発生した際のメンテナンス費用などがランニングコストとして必要になるため、手元の現金がまったくなくなってしまうのは危険でしょう。
ただし、資金が不足しているからと言って500万円から2,000万円程度のワンルームマンションへ安易に投資すべきではありません。
個人的には一棟もの以外、特にワンルームマンションはあまりおすすめしません。
都心部のワンルームマンション投資では賃料収入からローンを返済するとマイナスになるケースが多く、キャピタルゲイン狙いの投資になります。そもそもの根幹となる考えが異なるため、まったく別の投資であるとご認識ください。
不動産投資は歴史の長い伝統的な投資手法であり、王道的なアプローチでよほど投資する物件を誤らない限りは、一定の利益をもたらしてくれる魅力的な投資対象です。
人を選ぶという意味では投資のハードルは非常に高いですが、もし投資できる環境にある方はそれを生かさない手はないと思います。
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九条氏のインタビュー、前編はこちら
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