スナックビルへ投資後、コロナ禍でリターンは30%減。不動産投資家・夏目氏 2/4

高校生のころから株式投資を始め、社会人になってからは吸収合併や買収の対象となりそうな銀行やスーパーなどの株を買って利益を上げていたという夏目氏。2018年ころからは、不動産投資を始めた。

飲食店向け雑居ビルのオーナーとなり、順調に利益を上げていたが、現在は新型コロナの影響で厳しい状況が続いている。不動産投資を始めたきっかけや不動産投資の手法などについて聞いた。

インタビュー・編集:内田 誠也
執筆:山本 裕司

夏目氏(仮名) プロフィール

大学を卒業後、伊藤忠に入社。その後大手百貨店、食品メーカーを経て現在は不動産投資及び農業に従事。10代から株式投資を開始し、最大で1,000万ほどを運用。その資金を元手に不動産投資を開始。現在は地方にてスナックビルを3棟、7階建てのマンション1棟、区分マンションを保有。

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知人から手ほどきを受け、スナックビルを3棟購入

――不動産投資を始めたのはいつ頃ですか。

首都圏で不動産投資をしている人と知り合ったのがきっかけですね。

その人は古いビルを安く買って、テナントに貸すという事業をしているのですが、家賃収入でかなりの利益をだしていました。その人とたまたま知り合って、手ほどきを受けたのが始まりです。

――それで、いきなり不動産投資を始めたのですか。

もう一つ別の話があって、親類が事業で失敗して、新築から2年目ほどのマンションを手放さなければならなくなったんです。

それを父が引き取ることになったのですが、70代後半で年齢的な問題で銀行から融資を受けられなかった。そこで、父と私で不動産管理会社を作って、マンションを引き取ったんです。

それと、テナント事業の話を聞いたのが同じような時期で、同時進行のような形で進めていました。

マンションは7階建てで30室ほどあります。会社設立の資金は父が出したんですが、銀行の融資の折衝や不動産仲介の依頼、会社の代表などは私がすべて担当しています。

――古いテナントビルというのは、どのようなビルを買うのですか。

飲み屋街でよく見るスナックやバーなどが入居している雑居ビルがありますよね。それを買ってオーナーになるというやり方です。

私が教わった人は首都圏でやっていますが、私は地方でやっています。

ああいうビルは、バブル経済の前後に建てられたものが多いんです。築40年とか。購入するのに1,000万円もかからない。

テナントから月5万円もらうと、借り入れの元本の返済や金利の支払い、管理費などを除いても年利で40%の収益があります。

あと、そういうエリアで古い物件をもっていると、再開発というか地上げの対象となることもあります。買収に応じれば、高く買ってもらえますからそれで利益が出ることもあります。

西日本のとある繁華街で3カ月ほどで3棟のビルを買いました。

ゴミの処分業者変更はセンシティブな問題

――飲食業界のテナントというのは、しきたりとか、地元の人の付き合いとか面倒なことはないのですか。素人のよそ者には閉鎖的だとか。

地元の付き合いはいろいろありますよね。それこそ「正月の門松はうちから買ってくれ」とか。そういう地元の付き合いは不動産会社に任せているので、ある程度クッションになってもらえています。

ただ、ビルを買ってオーナーになった後、テナントにオーナー交代のお知らせをしたのですが、いきなり、全く知らない人から電話がかかってきたことがありました。

テナントの関係者でもなくて「俺はオーナーが交代するなんて聞いていない」と主張するんです。それで「そっちへ行く」と言って、本当に私の家までやってきました。そんなことは何回かありましたね。

会って話をしましたけど、本当に挨拶だけでした。「今後も付き合いをよろしく」ということでしたけど、前のオーナーの頃からの付き合いだから挨拶してくれ、ということだったんでしょうね。

ひと昔前だったら「うちに挨拶もなしに、勝手にオーナーになりやがって」ということもあったのかもしれませんが、今の時代はできませんからね。ただ、挨拶だけはちゃんとしてくれ、というのはあるのでしょう。

あと、最初に買ったビルではテナントから出るごみの処分業者で揉めましたね。テナントは各自、ごみを分別して集積場に出すことになっていて、それを業者に収集してもらうんです。

ところがその料金が高くて別の業者に変えようと思った。

普通に相見積もりを取ろうと別の業者に連絡をとったんですが、すぐにその時契約していた収集業者から電話がかかってきました。「オタクのごみはうちがやることになっている」とすごい迫力で怒られました。

――その業者はどのようにして相見積もりが行われたことを知ったのですか。

おそらく業者の間で連絡がいくようになっているのでしょう。たぶんそういう慣習があるんです。

なにせ、すごい剣幕で怒られて「うちがやることになっているんだから」の一点張りです。こちらも平謝りするしかありませんでした。

「父親が買ったマンションの借金を押し付けられて、資金繰りが厳しいんです」と少し脚色して事情を話したら、不憫に思ってくれたのか、結果的に少しだけ収集料を値下げしてくれて着地しました。

――地元の人にしかわからないルールやしきたりがあるんでしょうね。

事前に不動産屋にも「ごみ収集の業者は変えないほうがいい」と釘をさされたんですけど、少しでも収益を改善したかったので。

例の不動産投資を教えてくれた人に、この話をしたら「ごみの収集業者を変えるのはまずい」と当然のように言われました。

これで懲りて、残りの2棟を買ったときは、ビルの管理や地元との付き合いは全て不動産業者に任せました。

コロナ禍でテナントの飲食店が次々と退去

――飲食業界はコロナでかなり影響を受けたんじゃないですか。

壊滅的な影響を受けましたね。時短協力金をもらえるといっても、それでは足りないところはありますし、業態によっては協力金を受け取ることもできません。

コロナ前に、テナントビルを3棟購入していたのですが、どんどんテナントの店が閉まっていって、ガラガラになりました。今は家賃収入がなくなって固定資産税だけ支払っているような状態です。

最近、ようやく仲介業者のもとに問い合わせも入り始めているようですが、埋まっているのは1、2階だけで上の階は空室のまま、そんな物件もありますね

――買ってからトータルで考えるとプラスなんでしょうか。

コロナ前は年利で40%ほどの利益が出ていたので、いまでもトータルでは10%ほど収益は出ています。早く飲食業界が元に戻ってくれたらいいのですが。

繁華街の案内所で飲食店オーナーを紹介してもらう

――管理などを不動産業者に任せているということは、何もせずに家賃収入だけ入ってくるという状態なのですか。

そういう方法もあるのですが、私の場合は最初、テナント探しも自分でやりました。最初に買ったビルは空き室も多かったので。それが安く買える理由でもあるのですが。

そこでお金をかけて、内装をきれいにして古いソファーを買い替えるなどしました。内装を変えると入居者も増えるのですが、それでもすべて埋まるわけではなかったので、自分でも入居者を探してみようと思いました。

考えたのは、飲食店の案内所で経営者を紹介してもらうことでした。

酔って繁華街の案内所に行き、「あそこのビルのオーナーなんだけど、空き店舗ばかりで大変なんですよ。手広く飲食店をやっている人を紹介してくれませんか」と相談を持ちかけました。

それで紹介いただいたのが私より若い飲食店グループのオーナーでした。

きれいな彼女を連れて、高級車を乗り回していて、すごいですよね。その人に自分の物件の資料を持って行って説明したら「ちょうど会員制のバーをやろうと思っていたんだ」ということで話が進みました。

そんな感じで、結構いろいろな人を紹介してもらい、テナントを入れていきました。

ただ、同じ方法を別の街で試してみたんですが、そのときはだめでしたね。案内所に行っても人を紹介してもらえないんです。この辺は地域で違うのかもしれません。

――今、不動産投資は厳しい状況なんですか。全国的に。

売り物件はかなり出ているようですね。私のところにも物件の話が来ますけれど。今後、景気が回復して、飲食業界も盛り返すと見れば、買い時なのかもしれません。

次の狙いは倉庫の投資

――今後は、物件を買うつもりはないのですか。

飲食店のビルは、ちょっと厳しい気がしています。地元とのしがらみをまた経験するのは嫌ですしね。投資して、黙っていても収入があるのがいいですよ。

それよりも今は倉庫に関心があります。

ECの普及で、倉庫がかなり不足しているらしいんです。これはお世話になっている不動産屋さんから聞いたのですが、かなり倉庫の物件が動いているそうです。私にも一軒買わないかと話が来ています。

――倉庫を買って貸すんですか。

佐川急便やヤマト運輸などの大手も含めて、荷物の急増で各地の配送センターも倉庫がいっぱいになっているらしいんです。そういうところへ貸すことを想定しています。

今までは、配送センターから家や会社などに荷物を送っていたんですが、その先のラストワンマイルの集積所まで必要になっているそうです。

コロナでEC利用者が増えたということもあるのでしょうが、コロナが終息してもECの利用者が減るということは考えにくいですよね。今後減ることはなく、増える一方でしょう。ですから、今後も倉庫の需要は伸びる。

今検討している物件はとある港に近くて、近くに大手運送会社の支店もあります。今は製造会社の半製品を置いているらしいんですが、片付けてきれいにしたら、運送会社の倉庫として十分使えます。

近く、その倉庫の近くにある運送会社に行って、実際にその地域で倉庫が必要かどうか、聞いてみようかと考えています。一応、その会社が本命なんですが、ダメでも別の運送会社が興味を示してくれるんじゃないかと思っています。

いまはスナックビルを3棟と収益のタイプが偏ってしまっているので、それとは別のタイプの投資ができたらと考えています。

でも、買うのなら早く話を進めなくてはなりません。下手するともう売れたよということになりかねませんから。物件は1つしかなくて、早い者勝ち。これも不動産投資のむずかしさですね。

次回は成功談や失敗談、今後の日本経済をどう見るかなどについて話を聞きます。

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