「その企業が保有する資産価値に対して株価が異様に低い企業へ投資する」ファンドマネージャー・前田氏 2/3

ファンドマネージャーの前田氏(仮名)に、これまでの取引などについて伺いました。

ファンドマネージャー 前田(仮名)氏 プロフィール

国内外の運用会社において20年超のキャリアを持ち、日本株ファンドをはじめあらゆるマルチアセットクラスの運用経験を持つ。

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約20年にわたって日本株の運用やファンド・オブ・ファンズの組成や管理に従事

ーー簡単にご経歴や自己紹介をお願いします。

アセットマネジメント会社で約10年にわたって資産運用に従事し、主に日本株の運用を担当していました。

最近では外国株の運用を外部の資産運用会社に委託、いわゆるファンド・オブ・ファンズの仕組みの組成、運用などを行っています。

新卒でこの業界に入って、約20年です。

ーーご経歴について詳しく教えてください

2000年にファンドに入り、最初は年金などの運用担当として大型株を中心に日本株を取り扱っていました。その後、中小型株や新興国株への投資が盛り上がり始め、2000年前半には多くの大手投資会社で中型株ファンドを立ち上げる動きが見られました。

当時私が所属していた会社もJASDAQなどに投資するファンドを設定し、私がアサインされることになりました。それで当初携わっていた年金運用から中小型株への投資にシフトし、ファンダメンタルズを重視した取引を行うようになりました。

2006年のライブドア・ショックにより日本株の新興市場が崩壊したことで新興株は下火になりましたが、その後はIPOを中心とした株式運用で活躍する場を与えられました。

ーーその後について教えてください。

2008年に起こったリーマン・ショック後も中小型株の運用を担当していたのですが、企業のファンダメンタルズを一つずつ調査し、夜遅くまでハードな勤務が続いたため、体を壊してしまいました。

その後は運用の実務から離れましたが、引き続きファンドに関わる仕事に携わりたかったため、日本株だけでなく外国株も取り扱う、現在の仕事に移行しました。

印象に残っているジンズホールディングスへの投資

ーー過去の取引について教えてください。

私の過去の取引では3-5年保有して2-3倍、大きくて数十倍のリターンとなることが多く、長期保有した銘柄ほど、良い結果を残せています。

このような結果から、投資は時間を味方にすることが重要で、信頼できる銘柄を見つけて長期保有することが最善、という考え方に基づいて取引していました。

ーー印象的な取引について教えてください。

メガネ小売業のJINSの取引です。

私が日本の中小型株を担当していた2005年ごろ、同じ建物にJINSのオフィスが入っていたのですが、当時JINSはメガネではなく女性のアクセサリーや小物を販売していて、経営は厳しく、株価も30円程度まで下落していました。

▼ジンズホールディングス(3046)の長期チャート

同じ建物に入っていたこともあって、社長や役員の方の話を聞きに行ったのですが、社長室にユニクロの柳井さんの色紙が飾られており、彼をロールモデルとしていたことが印象的でした。

その後、JINSは実際に眼鏡市場における価格破壊を成功させ、株価も大きく上昇しています。

ーーJINSとの面談後、どのタイミングから投資されたのでしょうか。

興味もあり投資したかったのですが、株価が50円の頃は時価総額が低く、会社が破綻する恐れがあると会社に説明もできないため、株価が300円程度の時に、ファンドのガイドラインであるポートフォリオの10%まで投資しました。

その後、4年間保有し続け、株価は約6,000円まで上昇し、退職前に売却しました。

保有する資産価値に対して株価が異様に低い企業へ投資する

ーー銘柄購入および売却時の意思決定はどのように行われているのでしょうか。

前提として、私の得意とする投資スタイルはバリュー投資で、リターンが何十倍にもなることは稀です。

最近人気のグロース株は利下げや量的緩和など市場でキャッシュがダブついている時は大きな上昇が見込めますが、利上げなどでお金の供給が絞られると大きく下落することもあります。

このようなボラティリティの激しい銘柄、取引はファンドマネージャーの立場から見れば望ましくなく、そのため私はPBRなどを見ながら割安な価格で株を購入し、適正な価格に達したら売却するといった手法で取引しています。

ーー割安とはどのように判断されていますか。

具体的には、PBRが1倍までの会社は割安で投資の機会として魅力的なことが多いです。

例えば、昔の東京都競馬株式会社のPBRは約0.6倍と非常に低い時期もあり、それは競馬という業種自体が不人気であるというのが理由の一つですが、この企業は多くの不動産を所有しており、保有している資産価値は非常に高いのです。

このような、保有する資産価値に対して株価が異様に低い企業へ投資する、というのが私が得意とする取引です。

▼東京都競馬(9672)の株価とPBRのチャート

当時の東証二部には、このような銘柄が多く存在していましたね。私は新興企業や成長企業よりも、二部上場のバリュー型の企業が好きでしたね。

ーーではPERよりPBRで見ることが多いのですね。

はい、その通りです。

急激な成長が見込めるグロース株ももちろん魅力的な選択肢ではありますが、それはほかのグロースのプレイヤーに任せておけば良い。

私の得意とする領域はあくまで本来の企業価値に対して市場で過小評価されている企業を見つけることで、そこで戦えればいいんですね。

リーマンショックでは下落を免れ、他のファンドを上回るパフォーマンスを出す

ーーPBRを重視することの利点について教えてください。

2008年のリーマンショック時、多くの新興IT企業の株価が大幅に下落しました。しかし私が保有していた銘柄の株価は資産価値に裏付けされるものなので、下落には巻き込まれず、他のファンドよりも優れたパフォーマンスを出すことができました。

ーー前田さんの投資スタイルは四半期ごとに評価されるファンドマネージャーと相性が悪いと感じました。

実際に相性が悪くクビになった経験もありますが、それはファンドマネージャーだからというよりは、企業文化や方針との相性の問題ですね。

例えば、グロース投資を重視するフィデリティのような企業は私のスタイルとは合わないでしょう。一方、バリュー投資を重視する企業は、私のアプローチに共感してくれることが多いです。

ーーこのようなバリュー投資の考え方はどのように身につけたのでしょうか。

大学では金融学を学びましたが、財務諸表の分析方法や考え方はアナリストとしての実務経験を通じて学びました。入社当初はシニアの指導のもとで基本的な業務を担当し、その中で財務諸表の分析方法を身につけていきました。

中小型株は定量的なデータよりも定性的な要素の影響が大きい

ーーPBR以外で特に重視していた指標があれば教えてください。

PBRは確かに重要な指標の一つですが、特に中小型株においては定量的なデータよりも定性的な要素の影響が大きいと思っています。

特に中小企業では経営者の資質やビジョンは非常に重要です。なぜなら中小型企業の多くはオーナー社長であることが多く、その経営者の情熱やビジョンが会社の方向性を大きく左右するためです。そのため経営者の考え方や姿勢も考慮して投資判断していました。

JINSでも、経営者が尊敬する人物やその経営スタイルを通じて、その企業の将来性を感じ取ることができた例のひとつです。数字だけでは捉えきれない定性的な要素が中小型株の投資判断には欠かせないと考えています。

中小型株ファンドが投資する最低限基準は時価総額100億円

ーーファンドは運用額が大きく、時価総額が小さい中小企業への投資は難しいと思いますがいかがでしょうか。

時価総額が100億円以上であれば流動性の問題に直面することは少ないです。最大で500億円規模のファンドを運用したことがありますが、その際も十分な流動性を確保できました。

一般的な中小型株ファンドであっても運用金額が1,000億円を超えることは稀で、5,000億円や1兆円規模のファンドはほとんど存在しません。

海外にはかなり大規模なファンドも存在しますが、日本の市場では運用金額が1,000億円を超えると投資先の銘柄に過度な影響を及ぼすリスクが高まるため、この規模が適切とされています。

ーー「中小型」とは具体的にどれくらいの時価総額を指すのでしょうか。

会社やファンドによって異なりますが、一般的には時価総額が100億円以上の銘柄を対象として扱うことが一般的です。100億円未満の銘柄に投資するファンドは稀で、私自身も最低基準として100億円以上の銘柄を対象としています。

多くの機関投資家は時価総額100億円以上の銘柄を対象としており、それ以下の小規模な銘柄への投資というのは一般的ではないでしょう。

例外として、特定の投資戦略を持つミューチュアルファンドや投資信託会社などが、小規模な銘柄に投資することはあるようです。

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前田氏の全3記事のインタビュー、最後の3記事目に続きます。

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