AIによって奪われる可能性が高い職業
AI(Artificial Intelligence)が進化すると、奪われる仕事があると言われています。
その見解に関して著名なものは2015年12月に発表された野村総合研究所とイギリスのオックスフォード大学のマイケル A. オズボーン准教授およびカール・ベネ ディクト・フレイ博士との共同研究の結果です。
この研究では、601種類の職業についてAIに代替される確率を試算しています。
601種類の職業の定義は、労働政策研究・研修機構が「職務構造に関する研究」で報告しているものです。
研究結果によると、10~20年後に、日本の労働人口の約49%が就いている職業は、AIに代替することが可能と推計されています。
また、「AIやロボット等による代替可能性が高い100種の職業」も併せて公表されています。
筆者は「独立行政法人労働政策研究・研修機構」のwebsiteで職業分類をざっくり確認しました。2013年の研究では、「証券アナリスト」も職業としてみなされているようです。
出典:労働政策研究報告書 No.176
職務構造に関する研究Ⅱ ―5万人の就業者Web職業動向調査より、 現状、変化、能力、生活のデータ分析― 第2章
証券アナリストが含まれる金融専門職は「AIやロボット等による代替可能性が高い100種の職業」に該当していませんでした。
とはいえ、ChatGPT等生成AIの進化は近年目覚ましいものを感じます。
共同研究結果から約7年半が経過した現在、7年半前の研究結果と現在の状況に違いがあるのでは?と考えました。
筆者は数年間一応証券アナリストでサラリーを得ていました。
その経験を踏まえ、さらに知り合いのアナリストに尋ねて得た意見も踏まえて、生成AIと証券アナリストの関係を筆者なりに考察してみました。
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証券アナリストの仕事
証券アナリストは、金融取引の分野において市場や個別企業の分析や調査を行います。主に証券会社や銀行などの金融機関、投資顧問会社などに所属していることが多いです。
概して言えば、データや情報を集め、場合によっては独自に取材したりして、プレゼンテーションやレポートで投資家に対して見解や投資判断を提供するのが仕事です。
主に担当するマーケットが日本であっても、海外の情勢や投資家を無視するわけにはいきません。
時差の都合で、深夜早朝に仕事をすることも少なくないです。
出張が多いアナリストも多いように思います。
証券アナリストは、実はものすごく細分化されています。。
年に1度公表される「日経アナリスト・ランキング」は株式だけで32分野にわたっています。
27種類に分類されている業種別のほかに、中・小型株、REIT、テクニカル、ストラテジスト、クオンツ(計量分析)があります。
他に、エコノミスト(マクロ経済分析)、為替、債券、クレジットなどと実に分野は広いです。
所属する金融機関等の事情によりますが、アナリストにはアシスタントが着くことがあります。
スケジュール管理や出張の手配などの秘書的な役割に加え、アナリストが分析するためのデータ収集を担当することが多いように思います。
ChatGPTを投資検討ツールとして使ってみた
生成AIの代表格は現在であれば言うまでもなくChatGPTでしょう。
ChatGPTがどの程度有用なのか、筆者も試してみました。
結論から言うと、素で使う場合は、最新データが古すぎて役に立ちません。
この辺りはご存じな方が多いと思います。
ChatGPTをより有効に使うためには、プラグインを利用すべきでしょう。
プラグインも日々進化しているようで、何が都合がいいのか悩みます。
あれこれ調べた結果、筆者は”Boolio”というプラグインを使ってみました。
特定の国と株式の銘柄コード、ティッカーに基づいて株価情報を提供してくれるプラグインです。
試しに筆者が長い目で応援したいと考えている栗田工業(6370)について、尋ねてみました。
時価総額が米ドル建てで表示されたり、P/E(いわゆるPER)に使われれているEPSは直近の実績ベースであったりして、このまま使わない方がいいかなと感じた項目はありましたが、事業内容などはなかなか丁寧な解説だと感じました。
出典:ChatGPT with Boolio
BMRさんで以前決算短信解説を書かせていただいたダイキン工業(6367)についても尋ねてみました。
プロンプト(質問)は、「TYO:6367での株式パフォーマンスのサマリーを教えてください。」です。同業界の世界トップ10を教えてくれるのはありがたいです。
出典:ChatGPT with Boolio
使い方次第では、過去の株価を抽出する、その株価を使ってチャートを描画するといったことが可能なので、「使う側が賢ければ」という条件付きですが、ChatGPTが投資判断に役立つ場面は少なくないでしょう。
生成AIが普及したら証券アナリストは不要になるのか?
さて、この記事の本題です。
結論から言えば、アナリストという存在そのものが絶滅はしないと考えます。
概して言えばAIは学習したことは対応できるでしょう。
あるいは学習させることができれば対応できるでしょう。
一方でアナリストの仕事は事実を踏まえて、さらに自分の足で稼いだ情報を踏まえて、将来の予想をすることです。
その自分の足で稼ぐ部分はAIにとって代わられにくいと考えます。
この記事を執筆するにあたり、筆者の知り合いの現役アナリストに同じ質問をしてみました。
曰く
「投資家にとって価値ある情報提供をできたと思えるものは、まだインターネットにほとんど公開されていないものが多い」
そうです。
その価値あると考えられる情報は、丹念な取材で得られることが多く、AIが持っていない情報です。
そしてその丹念な取材は、前述したアナリストランキングの上位の人たちが日常的にやっていることだから、トップ級のアナリストは仕事が無くならないだろうとのことでした。
筆者もこの見解に同意です。
投資家のアナリストの見解への需要は減るかもしれないけれど、ゼロにはならないだろうと考えます。既に存在している情報に付加価値を加えるのは人間の役割で、それは投資の世界ではアナリストの役割でしょう。
一方、アナリストのアシスタントの仕事は減るのではないかと考えます。
アナリストが発行したレポートの数字の確認等も現状はアシスタントの仕事ですが、この辺りはAIの方がより正確に出来る可能性が高いです。
また、発行したレポートは海外の投資家にも読んでもらえるように翻訳する(アシスタントが翻訳するわけではない金融機関が多いと思う)ことが多いですが、これもかなりのレベルでAIが代行できるでしょう。
AIが得意なことは、現状はアナリストのアシスタントが担っていることが多いということです。
証券業界に起きそうなこと
営業に必要な人数が減るように思います。
営業の役割の一つは顧客とのリレーションシップ作りと維持だと考えますが、そのような人間関係を考慮せずに、取引の意思決定しやすくなるのが生成AIが普及する作用ではないかと考えます。
対面営業を営む証券会社は、今後の事業戦略を大いに考える必要が出てきたかもしれません。
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