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世界的な総合化学素材メーカーである信越化学の決算書を読む
以前、BMRさんにインタビューされたときに言及した銘柄である信越化学工業(東証プライム:4063 以下:信越化学)が2023年4月27日に、2023年3月期決算を発表しました。
参考:「半導体の材料製造で世界首位のシェアを持つ信越化学に期待」株式投資家・おせちーず氏 後編
クボタ(6326)の決算資料の読み方を書いた記事に倣い、信越化学についても決算資料を読み解くことにします。
参考:【決算資料の読み方】クボタ(6326) 株式投資家・おせちーず
信越化学は、世界的な総合化学素材メーカーです。
主な事業は4つです。
・生活環境基盤材料事業(塩化ビニル樹脂、か性ソーダ、メタノール、クロロメタン、ポバール)
・電子材料事業(半導体シリコン、希土類磁石、半導体用封止材、LED用パッケージ材料、フォトレジスト、マスクブランクス、合成石英製品)
・機能材料事業(シリコーン、セルロース誘導体、金属ケイ素、合成性フェロモン、塩ビ・酢ビ共重合樹脂、液状フッ素エラストマー、ペリクル)
・加工・商事・技術サービス事業(樹脂加工製品、技術・プラント輸出、商品の輸出入、エンジニアリング)
出典:信越化学会社概要
多くの商品が世界で屈指のシェアをとっています。

出典:数字で見る信越化学
化学メーカーで国内最大の株式時価総額(約7兆8,000億円、2023年4月末現在)であり、東証33業種の化学銘柄で唯一、TOPIX Core30に採用されています。

高い利益率についてはインタビュー記事でも既にご紹介しています。

出典:数字で見る信越化学
同業他社と言える日東電工(東証プライム:6988)は営業利益率が16%程度です。信越化学の半分だということです。

出典:https://www.nikkei.com/nkd/company/kessan/?scode=6988&ba=1
2023年3月期決算短信を読む
連結経営成績
クボタの記事で、「ちらっと見て終了」と書いた(1)連結経営成績です。
「成績」は既に終わったことの振り返りでしかないので、チラ見で終了ですが、EPSと営業利益率は変化を一応確認します。
2022年3月期と比較して大幅な上昇ですね。結果、先ほど触れた利益率も上昇しています。
実績は素晴らしい決算でした。
もっとも、決算発表前に営業利益は初めて1兆円を超えるか?とも言われていました。
1兆円を超える営業利益を出した企業は、トヨタ自動車(東証プライム:7203)、ソニーG(東証プライム:6758)など、過去に6社しかありません。
営業利益1兆円は超一流企業と言っていいでしょう。残念ながらわずかに届かない結果になりました。

連結財政状態
自己資本比率だけとりあえず確認する「(2)連結財政状態」です。
自己資本比率が80%以上というのは上場企業として非常に高い水準です。
「(3)連結キャッシュ・フローの状況」で確認する営業キャッシュ・フローも前期比で大きく増えています。

業績予想
筆者が一番注目する、「業績予想」はこの段階では開示されていません。
この点についても、後で触れます。

決算短信の3ページ以降に注目
信越化学の決算短信は3ページ以降が非常に親切です。
実績について前期との比較がわかりやすく掲載されています。
ROICやROAまで掲載する企業はそう多くありません。
ROICはReturn on Invested Capitalの略で「ロイック」と読みます。日本語では投下資本利益率です。
事業活動のために投じた資本に対してどれだけ利益を出せたかを測定する指標です。
ROEはあくまでも株主持ち分に対する利益の指標ですが、ROICは投資家が企業の総合的な競争力や稼ぐ力を判断するのに適しているとされます。
信越化学ではROAを、経常利益を総資産で割って求めています。

事業セグメントごとの売上高と営業利益率も非常にわかりやすく掲載されています。
長くなるので省略しますが、それぞれのセグメント別に表やグラフを用いた説明があり、投資家にとって非常に親切です。是非他の企業にも真似てほしいと思います。

財務活動によるキャッシュ・フローのマイナス額が大きく増加
キャッシュ・フローについてもわかりやすい表があります。
財務活動によるキャッシュ・フローのマイナス額が大きく増加しています。
これは自社株買いと配当の支払いが増えたことによるものです。
つまり株主還元に積極的な会計年度だったということです。
信越化学は2022年3月期で1兆円を超える「現金及び現金同等物期末残高」を持っています。
それなりの業績を出していない会社であれば、これだけの額の「現金及び現金同等物期末残高」を持っているとアクティビストが目をつけたりするものです。もっと配当を出せとか、きちんと事業に投資して、利益を増やせとか言われるわけです。
信越化学の場合業績自体も好調なうえに、株主還元もしっかりやったということで、アクティビストが付け入るスキを与えていないとも言えます。
きちんと株主に向き合っている企業です。

業績予想が非開示の理由
さて、筆者が決算短信で一番注目している、業績予想に関しては非開示とされました。
「今年に入ってから起きた事象及び起きつつある事態に鑑み、現時点で 2024 年3月期の業績予想を合理的に行うことはむずかしいと判断」したということです。
業績予想非開示は決して珍しいわけではありません。
特に2020年3月期決算短信では「新型コロナ・ウィルス」の影響がわかりかねるという理由で業績非開示が相次ぎました。
この業績予想は、アナリストコンセンサスなどと比較して、大きく乖離があると「サプライズ」と呼ばれ、株価の変化が大きくなることが多いです。
信越化学の場合は、比較する材料もないことになりました。
「わからない」は不透明要因です。投資家はわからないを嫌います。
株価は2023年3月期の好業績予想を織り込んで、2023年に入ってから上昇基調でしたが、2023年3月期決算短信が出た翌日は、一旦手仕舞われる形になっています。

企業側予想がないので、他の予想を確認しましょう。
2024年3月期は減収減益が予想されているようです。
2023年3月期の業績が良すぎたとも思えます。

出典:https://www.nikkei.com/nkd/company/kessan/?scode=4063&ba=1
信越化学の決算短信の素晴らしいところ
信越化学の決算短信には補足資料がたくさん載っています。
その多くが、表やグラフでわかりやすいです。
他社ではあまり見られません。
筆者が特に気に入ったものを2つご紹介します。
市場別売上高
一つは「市場別売上高」です。
海外売上高比率が高い信越化学です。
その中でもどの地域で稼げているのかが大まかにわかる表です。
米国とアジア・オセアニアで会社全体の売上高の6割以上を占めることがわかります。
言い換えると、この2つの市場が不調だと、信越化学の業績にはかなりネガティブだと言えます。

米ドルとユーロの為替
もう一つは、米ドルとユーロの為替の表です。
海外売上高比率が高いわけですから、為替によって業績が左右されがちです。
2023年3月期に関しては円安も業績にプラス寄与しました。
一方、2024年3月期に関しては、日銀総裁が交代したことや、米国の金利動向の行方がわかりにくいなどで為替の変化が不透明であることも業績予想を出しづらくなっている要因と考えられます。

分割されて買いやすい株価になった
筆者がBMRさんからインタビューを受けて信越化学の話をした時は1株2万円を超えるような株価でした。単元で買おうと思うと200万円以上が必要で、個人投資家は躊躇しがちなプライスだったでしょう。
2023年3月31日付で1:5の株式分割が実施され、現在の株価は1株4,000円程度です。以前に比べると買いやすくなりました。
市場の動向に左右されることは間違いありませんが、概して言えばしっかり稼いで株主に還元している企業だと思います。
業績が不透明な間、あるいは一時的に減収減益になる間はむしろ買い場かもしれないと考えます。
筆者は株価の動きを見ながらマネックス証券のワン株で少しずつ買い増ししています。
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